第二次安倍政権の発足からしばらくして、当時の安倍晋三首相をシリコンバレーに案内したことがあった。現地では、ライドシェア事業の起業家たちとの会談をセッティングしたりした。
僕は日本の政治家や官僚にも、積極的にイノベーションの最先端を走るアントレプレナーたちと交流を持って、その現場を少しでも体感してほしいと常日頃から思っている。国の舵取りを担う彼らには「次の選挙」や「次の予算」ではなく、「10年〜20年先」を常に見つめた上で戦略を立ててもらいたい。そうでなければ、この先の日本は本当に「沈没」してしまう、という危惧を真剣に抱いているからだ。
「未来」を見通した戦略を練っていくためには、やはり「現場」を知らなくてはならない。僕が新経済連盟での政策提言活動に力を入れているのも、それが大きな理由だ。すぐには目に見える成果に繋がらないかもしれないけれど、そうした活動を積み重ねていくうちに少しずつプラスの影響が出てくると信じている。
安倍さんにとってもイーロンと会ってテスラに乗り、いろんなアントレプレナーたちと対話をした体験は大きな刺激になったと思う。電気自動車や自動運転、ライドシェアがこれからの世の中をどのように変えていくか。彼らの話を直に聴くことによって、イノベーションの現場にあるリアルな雰囲気を感じてもらえたに違いない。
もちろん、このシリコンバレーの体験は一つの例に過ぎないと思う。でも、安倍さんは「民泊」の規制緩和に踏み切るなど、比較的、未来を見据えた戦略に前向きな面があったという印象を抱いている。
「新しい社会主義」に見える
では、昨年秋に誕生した岸田政権はどうだろうか。1月11日で100日間の“ハネムーン期間”も終わり、いよいよ2022年は政権運営の試金石となる1年だ。僕はこの連載でも繰り返し書いてきた通り、「イノベーション」と「競争」によって経済をドライブしていくことが、日本復活への条件だと考えている。そのためには強いリーダーシップと本質的な議論を厭わない姿勢が欠かせない。
岸田文雄首相は総裁選以降、「新しい資本主義」をスローガンに、金融所得増税など分配を重視する政策を掲げてきた。でも、ツイッターでも指摘してきたように、彼の言う「新しい資本主義」は、僕には「新しい社会主義」に見える。
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source : 週刊文春 2022年1月20日号