あなたと私は似ているようでその実全く別の存在である、ということを未だに分かってない人がいて時々びっくりしてしまう。女の子らしいほうが愛されるのにもったいない。それぐらいのことで怒らないでよ。冗談じゃん(笑)どうして褒めてあげたのに喜ばないの?

 なぜなら、私はあなたではないから。どうして分かってくれないんだろう。分類学上同じホモ・サピエンスに属するからか。いっそ『ムギとペス 〜モンスターズダイアリー〜』みたいに、まるきり見た目が違う人ばかりの街に放り込めば、あの人は分かってくれたのだろうか。

 舞台となるのはケンタウロスやリザードマン、ハーピィやニンギョなど、たくさんの種族が暮らす街。最近引っ越してきたハダカザル=人間のムギはこの街で出会う全てに驚いてばかりだ。2足歩行タイプのための服にはたいていシッポ用の穴があいていたり、出会った妊婦さんはタツノオトシゴ魚人の男性で、当たり前のように同性カップルが存在していたり。その度に隣人である物知りなジンロウのペスに助けられながら、ムギは少しずつこの街での暮らしを知っていく。

 ハダカザルばかりだった地元の町とはなにもかもが違うこの街は、先進的である一方で、多種多様な獣人が共存する街だからこその、それぞれの特性に起因する悩みや差別、偏見といった葛藤が存在している。特徴的な身体構造に向けられる偏見を内面化してしまっているハイエナの女の子や、子育てに市販のミルクは使わないとへろへろになりながらも搾乳するハーピィの父親、過去の記憶から脱皮をどうしてもポジティブに受け入れられない爬虫類の女の子……そのひとりひとりの状況は特殊なようでいて、よく見ると見覚えのあるものばかりだと分かる。

 まるで現実世界の合わせ鏡のような社会をベースに、さまざまな関係性や多様性そのものを動物の擬人化で表現することで、人間同士の間にも起きるそれらの問題をすっと理解できるようになっている。優しいストーリーの中で示される他者を尊重する姿勢はもちろんのこと、ケンタウロスの女の子がその恵まれた体躯をなぜ活用しないのかと問われ答えた「自分のこと 勝手に決められるなんて 殺されるのと同じ」というセリフや、ハダカザルはいいやつだって思われたいと寛容であろうとするムギにペスがかけた「『都合のいい人』にはならなくていい」という言葉など、自分を守る方法も会話の中にサラッと描かれていて胸に刺さる。

 そこからうかがい知れる作者の社会や他者への眼差しが沁みる。そこには現状への怒りと、己とは異なる存在への優しさと、まだ見ぬ世界への気遣いがある。

 あなたと私は全然違う。でもそんなあなたを尊重するし、みんな違うけど同じくらい頑張って生きているのを知っているよ。だから、その違いに時に躓きながらも考え、想い、悩み続けながら関わり合うことを諦めないで、共に生きていくと決めた。

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source : 週刊文春 2022年4月28日号