レンタル彼女にパパ活、整形、ホス狂い……始めは怖いもの見たさに石の裏をひっくり返すような下世話な興味だったはずなのに。いつしか覚えてしまった痛いほどのシンパシー。異なる環境にいる自分とは似ても似つかないはずの彼女たちの中に己の影を見て、その先に幸せを信じたくて、苦しいのにページをめくる手をとめられない。だって『明日、私は誰かのカノジョ』で描かれているのは、私たちと地続きの現代の話だから。

 レンタル彼女のアルバイトで生活費を稼ぐ雪や、承認欲求を満たすためにパパ活がやめられないリナ、美に執着し整形を繰り返すあやな、自分はモブでしかないと弁えていたはずなのに思いがけずホストにはまった萌など、現代の東京を生きる様々な女性たちの人生がオムニバス形式で描かれている本作。歌舞伎町など実際のスポットも登場し、整形アカウントやホスト用語などその界隈ならではの詳細な描写は、ほぼすべてのシーンが実体験や取材に基づいているからこそ。

 それぞれのキャラクターが着ている服やコスメ、使われているアプリなどもすべて実在のモチーフが推察できるものばかりで、セリフ以上に彼女たちの人となりを語る。そのディテールの細かさが、もしかして自分が知らないだけで、自分の身近にもこういう子がいるのかもしれない、と想像させる痛々しいまでのリアルさに説得力を持たせている。

 4章以降は作中の世界もコロナ禍に突入。配信者と「推し」の文化を取り上げた5章にて描かれた騒動はその後すぐに現実のものとなり、SNSに溢れる信奉者たちのコメントには見覚えがありすぎて、すわ予言の書かと背筋が凍った。

「豚にデパコスなんだよ!!」「被りは伝票で殺すんだよ♡」等のパワーワードで表現される彼女たちの本音や、日本社会の闇をさらけだすようなそのストーリーは露悪的にも感じられるが、読めば読むほどそこには人が誰しも持つ普遍的な痛みが潜んでいることが分かる。誰といても埋まらない孤独感や自覚せざるを得ない自分の立ち位置、消せない過去と植えつけられたコンプレックス。他者の人生が必要以上に可視化されたこの世の中では、ひとりぼっちの現実を突きつけてくるものが多すぎる。

 だから、彼女たちは誰も救ってくれやしない自分を救うために、自分の神様にすがりつくと決めた。お金や美しさ、決して自分のものにはならない“推し”。それらに依存する登場人物たちは、友人や恋愛で心の穴を埋めようとはしないし、そもそも埋められない、自分の苦しみが他人に分かるはずもないと最初から頼ることを放棄している。一人ぼっちで戦う彼女たちは強く、美しい。手を取り支え合うようなことはしないが、それでも互いの欠落や辛さを肯定し合う、その瞬間にかすかなシスターフッドを感じる。

 物語は簡単なハッピーエンドでは終わらない。幸せとはなんぞや? と考え込んでしまうようなラストには様々な意見があるが、どこか清々しさも感じる。

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source : 週刊文春 2022年5月19日号