今のところ結婚や出産の予定も願望もない私だけど、ひとつだけ心に決めたことがある。もし、結婚するなら、かつその相手が子を欲しいと希望したなら、そっと『わが子ちゃん』を手渡すということ。よく読め。音読し写経しろ。その上で、本当に親になりたいと言うのなら私も考える。けれど、ヘラヘラ深く考えもせずに「ハワイ行きたい〜」みたいなノリなら許さない。出産って、命がけなんやぞ!?

「アラサーちゃん」の作者・峰なゆか、1年越しの妊活を経て初の妊娠! しかしそこからの妊娠生活の実態とは。食べづわりの孤独や、安定期に入るまでの不安、出生前診断への葛藤など、妊娠による体調の変化や感情の機微を細やかに描いた本作はこれから妊娠を考える人、いやさ人間社会に参加している人なら誰しも必読の1冊となっている。

「私も射精ピュッピュ係がよかった!!」といった胸のすく名言の数々や、気分がふさぎがちな時は一人称を「ゴールデンレトリバーより賢いなゆちゃん!!」にして精神の安定を図るなど、大変な現実をカラッとした笑えるエンタメに昇華する手腕はさすが。そしてケラケラ笑いながら読むうちにいつしかふつふつと怒りが湧いてくるのだ。

 気づいているくせに誰も座席を譲らない電車の乗客たち、エレベーターにてタメ口で階数を指示してくるおっさんや妊婦にわざと肘鉄してくる人間の存在……。そもそも巷(ちまた)にあふれる妊娠出産に関するアレコレはどうも気合を信じすぎだ。生理痛等にも共通することだが、女は人間であり生物なのだから、その痛みや不調は我慢とかじゃなくてちゃんと科学的に考えるべきじゃないだろうか。母性を信仰し、「パパを新入社員と思って褒めて伸ばしましょう」とかいうのも、そもそも父親をバカにしていないか? と感じてしまうし、ママも新入社員だし重傷を負ってること忘れないでください。

 特に、名字を「峰」にすると伝えたところ義父に大反対され「今までは軽い気持ちで変えたくなかったけどこんなことを言うヤツがいるなら強い決意のもと私は絶対に名字を変えない!!」と声をあげる作者の姿には、私も決意を新たにした。ただ単に私の名字かっこよくない? という理由だけで名字を変えたくなかったのだが、そのくだらない理由のままに絶対変えないつもりだ。

 壮絶な妊婦の現状を前に、作者の夫であるチャラヒゲの存在が眩しい。「なゆちゃんは妊娠・出産という大変な役割を担ってくれたんだから育児はすべて僕が担当するッ!!」という宣言に始まり、体調不良に苦しむ彼女に代わって全ての家事を担当。足が攣(つ)れば夜中であろうが街中であろうが揉み、何気ないやり取りにすら気遣いと愛に溢れていて、本当は妖精さんなんじゃないかと疑ってすらいる。こんな人と結婚したいなあと思うけど、それがハードル高いんだよなあ。

 手始めに無痛分娩を選択した先輩に「そんなんじゃ親の自覚持てないぞ」と言い捨てたおっさんの口に本作をねじ込むところから始めたいです。あと、私の友人に「妊娠は病気じゃないからね?」と笑った上司さんにも進呈します。病気じゃないから治療法がなくて大変なんだろうが。

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source : 週刊文春 2022年6月2日号