猛暑が続いたかと思えば、雨が続いた今年の7月。それでも、これから厳しい陽射しが照りつける日々が始まるだろう。学生時代は炎天下、テニスに明け暮れる毎日だったけれど、夏と言えば、ふいに思い出すことがある。大学教授だった父・良一が客員教授としてイェール大学にいた頃、家族でアメリカ全土を旅した時の記憶だ。

 アメリカの大学は夏休みが3カ月ほどある。そのうちの2カ月間、父は古い車に僕ら子どもたちを乗せて、色んなところに連れて行ってくれた。エアコンもついていない車で、時には砂漠の上を走り、水に濡らしたタオルを車内でぐるぐると回しながら、何とか涼を取るような旅だった。今でも断片的な風景の一つ一つが「まるで映画の1シーンみたいだったな」と胸に甦ってくる。

 父は僕らをよくキャンプにも連れて行ってくれた。グランドキャニオンの近くに夜中に着き、トランクに積んでいたテントを家族みんなで張る。朝、目覚めて外に出ると、あまりにも雄大な風景が広がっていて、「なんだ、このでっかい場所は」と驚いたことをよく覚えている。

 そうしてアメリカ全土を旅する中で、現地ならではのエンターテインメントのダイナミックさに触れたこともあった。テキサスにあるNASAの宇宙センターとアストロドームに行った時のことだ。

 MLBのヒューストン・アストロズの本拠地アストロドームは、1965年に作られた世界で初めてのドーム球場。日本初のドーム球場である東京ドームの開業は23年後の1988年だから、子どもだった当時の僕にとってはものすごく未来的で、ワクワクしたのを覚えている。

ダイナミックなエンタメ

 NASAの宇宙センターを見学した後、「今晩はアストロドームに野球を観に行くぞ」と父が言う。ところが、泊まっていたモーテルのテレビを付けると、その行く予定だった同じスタジアムではバイクレースをやっている。

「あれ、今日の夜にここで野球を観るんじゃなかったっけ?」

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source : 週刊文春 2022年7月28日号