数年前に鬼籍に入った祖父母の家は岡山にあった。法事の度に山のように大手まんぢゅうが配られ、食堂の上には小さな神棚、倉庫の奥には何かはよく分からないが旧(ふる)そうな箱やら紙の束やらがどっさり。当たり前すぎて疑問にも思わなかったあれらをもっとちゃんと見ておけばよかった。何故まんぢゅうを積むのか。その神棚には何の神がいるのか。あの紙束には何が書いてあったのか。そこには遠い祖先の暮らしが詰まっていたことだろう。『こまったやつら〜民俗学研究会へようこそ〜』の面々を連れて帰ったら、きっと喜ばれたに違いない。
1989年、ド田舎から東京の大学へと進学した桑子順は子どもの頃から人には見えない小さな生き物が見えた。古いものにくっついていてひどく陽気でよく喋るそれらが見えるせいで変人扱いされてきた桑子は、どうにかその能力を隠して憧れのキャンパスライフを送ろうとする。が、袴に下駄姿の櫻井安慈なる変な先輩に誘われ、「民俗学研究会」へと足を踏み入れることになる。
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source : 週刊文春 2022年9月1日号