「完全版は貴重映像多数につき地上波1回限定のみ」

 番組冒頭、そんな注釈がされた『私のバカせまい史SP』(フジテレビ)。「武田鉄矢のモノマネの歴史」「どろどろ昼ドラ愛憎グルメ史」「スケキヨの足史」など今まで誰も調べたことのない“バカせまい”歴史を長期間にわたって大真面目に研究・調査し、それを芸人たちが発表するという番組だ。配信を前提として、配信にも適した番組作りが求められている昨今、権利関係の問題等で完全な形では配信することができない。時代を逆行するようなスタイルだが、その貴重映像が「ものまね番組ご本人登場史」といったバカバカしくて何の役にも立たない情報のために流されているのが、どこか痛快だ。

「ひとりひとりの芸人の負担がえげつない」と司会でプレゼンターも兼任するバカリズムが言うように、打ち合わせ等には芸人本人も参加。発表へ向けてかなりの時間や労力を割いているのがわかる。これも今の時代、なかなかないスタイルだろう。それ故、プレゼンには熱がこもる。バカリズムがプレゼンしたのは「柴田理恵号泣史」。

 柴田理恵を「日本で一番泣き顔を見せた芸能人」だと推定し「芸能界のウォーターフロント」と形容するノリノリっぷりで「いつから泣き、何で泣いてきたのか?」を解き明かしていく。最初に彼女がテレビカメラの前で涙を見せたのは1997年の日本テレビの深夜番組『すっぴんDNA』。当時38歳。過酷な塩作りに挑戦する女性アイドルのVTRを見た時だという。

柴田理恵 ©時事通信社

 そこから「テレビで泣いた回数」のグラフを見ながら「2002年に“2桁号泣”を記録し、涙のイメージを確立。その翌年には“涙の祭典”『24時間テレビ』に初出演。そこで“特大号泣”」などとバカリズムらしい言い回しで紹介していく。さらにスタジオで「柴田しか泣いていない」状況が49%にわたるというデータも。「ほぼ半分がソロアーチ」とバカリズム。彼女の泣き方には「小泣き(素泣き)」「中泣き(拭い泣き)」「大泣き(メガネずらし→ハンカチ拭い)」「満点大泣き(メガネ外し→大拭い)」と4段階あるだとか、涙の傾向を、しっかりとしたデータに基づきながら、漫談のような仕上がりで解説していく。

 ひたすらバカバカしくてまごうことなきムダ知識。この日発表された「ものまね番組ご本人登場史」「クイズ番組第1問史」「お笑い芸人のあるあるネタパッケージ発明史」も同様だ。「なんでそれ調べなあかん?」とさらば青春の光・森田がツッコんでいたが、それこそがこの番組の本質を示している。調べたって意味はない。ならばなぜやるのか。愚問だ。ただただ面白いから。プレゼンした後の充実感あふれる芸人たちの表情がそれを物語っていた。

『私のバカせまい史SP』
フジテレビ系 スペシャル番組
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/bakasemaishi/index.html

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source : 週刊文春 2022年10月20日号