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耳の聴こえない親を持つ聴こえる子ども、「コーダ(Children of Deaf Adults)」について調べる上で、『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(丸山正樹 文春文庫 700円+税)を読んだ。
主人公の尚人は、聴こえない両親と兄を持つコーダ。病院の診察や役所での手続きなど、幼い頃から様々な場面で家族と世間との間の通訳を担ってきた。「自分がしっかりしなければ」とそれだけを思っていた。
けれど尚人は、自分を「損なわれた子」だと感じていた。両親は聴こえない兄を溺愛し、その態度の違いは幼い尚人にとって、自分が愛されていないと感じるには十分だった。〈僕だけが家族と違うんだ〉。
そんな思いはろう者のコミュニティの中で何度も味わってきた。それまで日本手話(ろう者が昔から使っているもので、日本語の文法とは全く違った独自の言語体系を持っている)でにこやかに会話をしていても、尚人が「聴こえる」と知った瞬間、異端者を見る目を向けられる。彼らは尚人のそばから去り、自分たちの「仲間」の方へ移っていく。尚人はいつも問われていた。自分は「ろう者なのか、聴者なのか」と。
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source : 週刊文春 2023年6月1日号