【前回までのあらすじ】瀬尾政夫が逮捕された後、彼の窓口として着手金や経費などのやり取りを任せられている池田啓太は、作曲家を複数抱える音楽事務所に所属していた。池田に話を聞くために、都内にある事務所「スカイ・ハイ」を訪れた久代奏は、瀬尾と似た落ち着いた雰囲気をまとった池田から「政夫ちゃんは先生に担当してもらって喜んでますよ」と歓待を受けた。

 

「瀬尾さんは池田さんのことをよほど信頼されてるんでしょうね?」

「もう腐れ縁ってやつですよ」

「出会われたのはお仕事ですよね?」

「えぇ、そうです。一九八五年でしたか。そのとき、政夫ちゃんは『エースレコード』の音楽D――ディレクター――で、全く売れてない男性アイドルユニットを担当してたんです。入社三年ぐらいだったかな? それで私に編曲の依頼をしてくれたんです」

 池田によれば、作詞や作曲・編曲などつくり手へはP――プロデューサー――が依頼するそうだが「政夫ちゃんの上司はこのユニット、諦めてたから」という理由で、瀬尾が全面的に取り仕切っていたという。

「出会いが印象的でね。スタジオで待ち合わせしたんですよ。エッジの効いたピアノが聞こえるなぁと思ったら、政夫ちゃんが弾いてたんです。坂本龍一(さかもとりゅういち)の『Riot In Lagos』。もともと『B-2ユニット』っていうソロアルバムに入っていて、YMOが演奏していたことからも分かる通り、シンセの曲なんです。あれをピアノアレンジで聴いたことなかったからびっくりしてね。あまりにかっこよくて」

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source : 週刊文春 2023年11月16日号