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「ひとりで死んでも“孤独死”ではない」上野千鶴子が“幸せな最期”について主張し続ける理由とは?

『在宅ひとり死のススメ』より #1

2021/01/20

source : 文春新書

genre : ライフ, ライフスタイル, ヘルス, 医療, 読書

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変わりゆく老後の常識

 わたしは私利私欲のために研究をしている、と言ってきました。介護保険ができたとき、これはわたしのためにできたんだ、と思いました。そのわたしの「おひとりさまシリーズ」がたくさんの読者に読まれたのは、わたしと同じような立場にいるひとが、思ったより多かったからです。『おひとりさまの老後』(2007年)を出してから『おひとりさまの最期』(2015年)を出すまで8年、それからも6年経っています。わたし自身も順調に加齢しましたし、そのあいだに社会も変わりました。

 何より独居の高齢者が急速に増えましたし、「おかわいそうに」の代名詞だった「おひとりさま」のイメージがすっかり変わりました。最近あるオッサン向け週刊誌に、こんな特集をみつけました。「ひとりになったとき、人はここで失敗する」……失敗の内容は「子どもと同居する/孫の教育資金を出してしまう/息子や娘に財産を渡してしまう/再婚してしまう」。それを見ながら、10年くらいのあいだに、老後の常識が変わったと感慨を抱きました。

 わずか10年余で、老後の常識が180度変わりました。「子どもと同居が幸せ」から「同居しないほうが賢明」へ。「おひとりさまはみじめ」から、「おひとりさまは気楽」へ。その「常識」を変えた功績のいくぶんかは、わたしにもあったと思いたいです(笑)。

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 若い頃、「今日の常識は明日の非常識!」そして「今日の非常識は明日の常識!」と言ってきました。そのとおりになったようです。

ひとりで死んでも「孤独死」ではない

 そして、次に残された課題が、ひとりで死ぬことです。ひとり暮らしは「孤立」ではない、ひとりで死んでも「孤独死」ではない、と言ってきました。だから「在宅ひとり死 ©ChizukoUeno」という新しいことばをつくりました。それでも「在宅ひとり死のススメ」などという思い切ったタイトルの本が出せるようになるとは、10 年前には想像もしていませんでした。