4月12日に社会学者の上野千鶴子さんが東京大学の入学式で述べた祝辞が話題になりました。祝辞で「頑張ってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」と述べた上野さんが、女性の労働環境や、日本型雇用について労働研究者・濱口桂一郎さんと話し合った対談を紹介します(初公開日:2016年2月2日/本の話WEB掲載)

働く女子の運命』を上梓した濱口桂一郎さんは、労働省出身で日本型雇用研究の第一人者。これまで『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中公新書ラクレ)や『日本の雇用と中高年』(ちくま新書)で労働問題に鋭く切り込んできた濱口さんが、次に選んだテーマは「日本型雇用と女性の活躍」。

 ジェンダー研究の権威・上野千鶴子・東京大学名誉教授と行ったこの対談では、行政マンならではの組織の視点を持つ濱口さんと、女性の辛苦を知り尽くした上野さんとの大激論が繰り広げられました。 日本型雇用の問題とは? 欧米との違いは? 男性並みに働くことが解なのか? 悩めるあなたへのヒントが満載です。


濱口桂一郎さん(左)と上野千鶴子さん(右)

「世の中真っ暗になった」と学生から手紙をもらった

上野 さっそく拝読しましたが、論理的でエビデンスがあって、説得力がありますね。私が書いた帯の推薦コメント通り「そうか、やっぱり、そうだったんだ。ニッポンの企業が女を使わない/使えない理由が腑に落ちた。」というのが、掛け値なしの感想です。

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濱口 ありがとうございます。これまで女性問題は、労使問題の中でも特殊な分野と見られてきて、普通の議論の俎上に上がってきませんでした。けれど、今まで自分の本(『若者と労働』『日本の雇用と中高年』)を読んだ人へ、「同じ武器で女性の労働問題も語れるんだぞ」と言いたかった。それが執筆の動機でした。

上野 ただ、タイトルにある「運命」という言葉には、女性の労働環境は今後も変えられないようなイメージがあります。働く女子の話をするとどうしても暗くなるんですよ。

 ある大学教員が一年生のゼミの指定文献に私の『女たちのサバイバル作戦』(文春新書)を選んだら、「希望を持って大学に入って最初に読まされた本がこれで世の中真っ暗になった」という手紙を学生さんからいただきました。今の政権も、「一億総活躍」なんて言っていますけど、要するに「活用されて捨てられて」というのが現実ではありませんか。

日本型雇用の出発点は「生活給」思想だ

働く女子の運命』(文藝春秋)

濱口 タイトルの"運命"には、それだけ難しい問題なのだ、というメッセージを込めたつもりです。欧米では「ポジティブ・アクション」などによって女性の社会進出が進んでいます。しかし、それを日本に導入してもうまく行かなかった。それは、背後に堅固な日本型雇用システムがあるからなんですね。

上野 個人の意識の問題ではなく、構造の問題なのだ、ということは誰かが言わなければならないことでした。この本は明快に「日本型雇用が諸悪の根源」とはっきりおっしゃいました。これにはまったく同意します。

濱口 日本型雇用の特徴のひとつに、給与は「男が家族の生活を成り立たせる」ためのものだという、「生活給」という考え方があります。これが女子の労働と深くかかわってきた。そこでこのテーマから話を始めたいと思います。