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働く女子はなぜ報われないのか? 上野千鶴子氏×濱口桂一郎氏が大激論

働く女子はなぜ報われないのか? 上野千鶴子氏×濱口桂一郎氏が大激論

「全社員 島耕作」な会社は幸せか

source : 本の話

genre : ニュース, 社会, 読書, 働き方, 企業, 経済

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上野 リクルートキャリアの海老原嗣生さんは「35歳までバリバリ働いて、その後は出世を選ぶか、賃金カーブは低くてもワークライフバランスを取るか選択させる」という雇用形態を提案しておられます。海老原さんはずいぶん濱口さんの影響を受けられているようですが(笑)。

 ただ、海老原さんの高齢出産説には驚きました。彼の理屈では、働く女性は35歳まで子どもを持たないほうがよい、ということになりますね。最近の「卵子は老化する」から出産適齢期に早く産んでほしいという政府のキャンペーンとは正反対です。

濱口 そこは私も懐疑的です。しかし、システム改革を主導するのは女性問題より先に中高年問題をどうするかでしょう。女性が高齢出産しないで済むモデルを実現するためには、教育システム自体を職業中心型に変えなければならなくなりますからね。人文系の大学教授たちが猛反対します。

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日本はメリトクラシー(能力主義)社会ではない

上野 最近の女子学生は実学・資格志向になっています。でも結局、日本はメリトクラシー(能力主義)社会ではない。そこにもギャップが生れています。

濱口 むしろ企業は学生に何でも書き込める“真っ白なキャンバス"を求めています。そして明確な評価軸はないまま、職場のみんなが「あいつはデキる!」と判を押した人間が出世するというシステムです。

上野 やっぱり。ジェンダー研究の用語で言うと「ホモソーシャル(男性同士の絆)」な集団ですね。これでは女性は入っていけない。

濱口桂一郎さん

濱口 “スカートをはいたオッサン"だったら来いよ、ということですね。女性が同じ行動様式をしてくれるならウェルカムで、表向きは男女平等になっているんです。ただし、それが「無限定モデル」、つまり仕事も、転勤も、労働時間も“無限定"、つまり会社の言うなりに働かなくてはならないシステムをベースとしているので、女性たちはドロップアウトしていってしまう。

 総合職はいまだに男性優位のシステムです。無制限に使えるから、企業は使いやすい。その構造を変えるというのは、企業にとってものすごく不便になります。なのでそこには手をつけないで、一般職をバラして非正規化するのがよかったわけです。

 新卒で男をみんな正社員で入れるのをやめるとともに、無限定雇用に女も入れることになっただけで、女性の立場は副次的に変化するんです。

上野 男並みにがんばれるのはレアな女だけです。育休世代以降、無限定的な働き方が女性の活躍を阻んでいる。さらに問題なのは、女の中で分断が起きていることだと思います。すでに女性労働者の6割が非正規です。しかし、世間の関心が向いているのは、管理職になった女性や成功した起業家のようなごく一部の女ばかり。

"スカートをはいたオッサン"はレアだけど人口の数パーセントはいるでしょう。「202030(*)」でいう30%は無理ですけれどね。そのレアな女たちに「私にはできたのに、どうしてあなたたちにはできないの?」といわれちゃ、普通の女性はたまりません。

*……社会のあらゆる分野において、2020年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする政府目標