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「俺たちはみんな犬や豚」アイドルらしかぬ過激な歌詞

 そもそもBTSは、K-POPを動かす大手音楽事務所ではない小さな会社のアイドルとしてデビューしたことで、デビュー当初は主流メディアからほとんど注目されなかった。しかし彼らは、その不利な立場から成長していく自分たちの姿と同世代へのメッセージを、ブラックミュージックのサウンドと表現様式に乗せ、SNSをつうじて活発に発信しながら「BTSとしての物語」を構築していった。

「若者の人生と夢、愛」を音楽のテーマとしている彼らは、その若者を苦しめる格差や不平等などに対して政治的なメッセージを投げかけることをもためらわなかった。

 たとえば、「DOPE」(2015年)では「何放世代(経済的・社会的理由で結婚、出産、安定した雇用などを手放さざるを得ない韓国の若者たちを揶揄する言葉)」「マスコミと大人たちは『意志がない』と俺たちを罵倒する」などといった歌詞が、「Am I Wrong」(2016年)では当時韓国教育省高官による「民衆は犬や豚」という発言を批判したと読み取れる「俺たちはみんな犬や豚、キレて犬になる」という歌詞や、「このクチコミが何ともないなら、このヘイトが何ともないなら、お前は正常じゃなく非正常」などといった歌詞が登場する。こうした歌詞を現役のアイドルが歌っていることを想像してもらえば、BTSのアイドルとしての特殊性を実感してもらえるはずだ。

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©iStock.com

既存の権威から離れた場所で獲得したファンダム

『花様年華Pt. 2』がビルボードアルバムチャートにランクインした2015年頃から、BTSのファンクラブ「A.R.M.Y」を中心としたグローバルなファンダムが爆発的に拡大した。それを可能にしたのは、彼らが表現する先端の音楽と圧倒的なダンスパフォーマンスだけではなく、その強いメッセージ性と成長し続けようとする態度、従来の男性像とは一線を画すファッションとイメージに共感したファンダムの力であり、言語の壁など簡単に乗り越えてしまうソーシャルメディアの力だった。

 既存の秩序や権威から離れたところで、BTSの音楽をつうじて、いまの時代を生きる自分を見つけ出そうとする献身的なファンダム。その姿から、欧米のメディアはビートルズとそのファンダムを思い出したのだろう。