「原爆Tシャツ騒動」からはBTSのいまの立ち位置が垣間見える
そのBTSとファンダムが新たに直面した問題は、BTSのいまの位置付けとファンダムに対する彼らの態度を端的に表すものだともいえよう。とくに、いわゆる「Tシャツ騒動」は、その象徴的な出来事だった。
「Tシャツ騒動」について詳細に説明する必要はないだろう。ここでいうTシャツとは、裏面に「愛国心」、「我が歴史」、「解放」、「韓国」(KOREA)という文字が英語でデザインされ、上には原子爆弾投下直後の写真が、下には解放の知らせを受けて万歳する人びとの写真がプリントされたもの。それを着たBTSのメンバー、ジミンの姿がYouTubeのドキュメンタリーに2秒間映されたことで問題化した騒動である。
これを発見し、「原爆Tシャツ」と名付けた右翼系の著名人やネットユーザーたちがBTSを「反日グループ」と規定し、批判すると、テレビ朝日は11月9日に予定されていたBTSの「ミュージックステーション」出演を見送った。放送前日の夜のことだった。
「日本人がBTSの人気を妬んでいる」との報道も
その影響は大きかった。CNN、BBC、ビルボードなどが悪化した日韓関係とともに注目する中、全世界のファンダムは驚きを隠さなかった。とくに韓国からは「悪化した日韓関係を背景に文化交流を政治的に利用している」「日本人がBTSのグローバルな人気を妬んでいる」などの声が上がった。積極的なファンたちは「原爆投下の6日後に植民地から解放された『光復節』を記念するためのものである」というTシャツ制作会社の説明をもとに、問題のTシャツを「光復Tシャツ」と名付けた。
一部の日本のネットユーザーがBTSにつけた「反日グループ」というレッテルに対抗するかたちで、BTSを「愛国アイドル」と呼ぶ韓国のファンやメディアも一部から出てきた。あっという間に「原爆Tシャツ vs 光復Tシャツ」そして「反日 vs 愛国」のフレームができてしまったのだ。
騒動を生んだのは原爆に対する日韓の認識の「ズレ」
しかしそもそもこの騒動は、原爆に対する日韓の認識と感情の根本的なズレが生んだものである。「1945年」を植民地から「解放」された年として記憶する韓国において、原爆や、その被害に対する十分な理解や想像力を共有してこなかったのは事実である。
「ハンギョレ新聞」も、11月12日の記事で、「原爆のイメージは光復の象徴としてふさわしくない」という<韓国原爆被害者協会>(当時朝鮮人の被爆者は7万人以上に上った)の指摘と「テレビ朝日の放送見送りとは別に、原爆の問題を<加害者―被害者>のフレームで捉えてはいけない」という韓国内の意見を報じた。つまり今回のTシャツ騒動は、日韓両方において冷静かつ丁寧に議論し、相互の理解を深めていくべき問題なのだ。
しかしはやくも「反日」と「愛国」といったナショナリズムのフレームが築かれてしまうことで、多くのファンは自分たちの居場所と声を失わざるを得なかった。一方ではBTSを擁護すれば「反日」だと批判され、一方では原爆イメージに対して戸惑いと違和感を表すと「嫌韓」だと批判される状況に直面したからだ。