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自身をノーベル賞受賞者に重ねていた?

 印象深かったのは、動画やサミットでの発表で、賀氏は「ルルとナナ」という双子の名を、まるで人々の記憶に刻みつけるかのように何度も口にしたことだ。動画の中では「メディアは最初の体外受精児であるルイーズ・ブラウンの誕生についてパニックをあおった。だが、40年間にわたり、規制と倫理は体外受精と共に発展してきた」とも述べている。1978年の誕生当時、ブラウンさんの名前はやはり世界中で報じられた。多くの批判を受けながらも彼女の誕生に携わったロバート・エドワーズ博士(2013年死去)は、2010年にノーベル医学生理学賞を受賞している。私には賀氏が、エドワーズ博士とブラウンさんに自身と双子を重ね合わせているようにも感じられた。

 しかし、賀氏が将来、栄誉を受ける可能性は低い。体外受精や出産に関わったとされる深センの病院は関与を否定している。各国の学術団体はもちろん、中国の研究者団体さえも、相次いで今回の研究を批判する声明を出した。

ロバート・エドワーズ氏(左端)と、世界初の体外受精児の英国人女性ルイーズ・ブラウンさん(右から2人目) ©時事通信社

 サミットで「(今回の臨床研究を)誇りに思う」と述べた賀氏も、さすがに今は四面楚歌の心境だろう。賀氏をはじめとする関係者への調査が尽くされ、その結果が速やかに公開されることを期待したい。また、もし「ゲノム編集ベビー」が実在するならば、生まれた双子とその両親、妊娠の可能性があるというもう1組のカップルへの、長期にわたる医学的・精神的なケアやサポートも必要だ。

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 2015年のヒト受精卵改変に続いて世界を驚かせた今回の一件は、時に拙速に進むゲノム編集研究の危うさを浮き彫りにした。どんな技術にも光と影がある。ゲノム編集の恩恵を正しく受けるためにも、私たち一人ひとりが、自分たちの問題としてこの技術について知り、考えるべき時なのかもしれない。