まさに勝利の美酒だった。

 11月20日、カンボジア代表はスズキカップ(東南アジアサッカー選手権)の第3戦でラオス代表に3対1で勝利した。本田圭佑がカンボジアの実質的な監督に就任して以来、初めての勝利である。

オーストラリア・メルボルンからカンボジアに駆けつけた本田圭佑“監督”。著者(右から4人目)もスタッフとしてベンチに入っている ©FFC

赤ワイン片手に選手たちと話を始めた本田

 本田は練習にドローンを導入するなどテクノロジーを取り入れる一方で、体温がこもった“飲みニケーション”も大事にしている。スタジアムからホテルに戻って夕食を食べ終えると、選手たちにアルコールを解禁した。

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「みんな外へ飲みに行きたいかもしれへんけど、すぐベトナム戦があるからそれはダメ。でもホテル内だったら自由に飲んでいいよ」

  半分以上の選手が夕食会場に留まり、自ずと本田のまわりに輪ができる。すると、なぜか本田が選手を指名してサシで話すという“公開面談”が始まった。

  いつもはチームマネージャーが英語からクメール語に訳しているが、この日は日本語の通訳が来ていた。「英語がうまくなったと言われるけど、やっぱり日本語の方が俺の思考を全部表現できる」。本田節をぶつける絶好の機会だ。

ラオス戦のロッカールームで円陣を組む本田とカンボジア代表の選手たち ©FFC

「ビサル、こっち来て」

 本田はキャプテンのセンターバックを横に座らせると、赤ワイン片手に話し始めた。

「ビサル、将来の目標を聞かせて。マレーシアでやりたい? なんでマレーシアなん? もっと大きな目標を持たんと。大きい目標を持つと日々の努力の質が変わってくるから。よし、Jリーグを目指そう。お前ならできる。もちろんまだ足りひんとこはいっぱいあるよ。でも何をすべきか、俺がちゃんと教えていくから」

「例えば走り幅跳びで4mを目標にするか、6mを目標にするか?」

  本田は選手に目標を聞くのが好きだ。目標設定の仕方が、今後の成長に大きく関係してくるからである。

「たとえ話をしよう。走り幅跳びで4メートルを目標にするのと、6メートルを目標にするのとでは、努力の仕方って変わってこない?

 俺は小さい頃、将来W杯に出ると言って笑われていた。でも結局、W杯に3回出た。そして今、2年後の東京五輪に出ると言っているのね。いまだにお前なんかにできるわけない、無理だと言われる。でもそんなの関係ないよ。大きなことを言うと、みんなそう言うもんだから。周りの意見なんて一切気にするな」