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「片付けブーム」の先駆者・辰巳渚が息子に伝えたかったこと

フリーエディターの石井香奈子さんが語る辰巳渚さんとの思い出

2018/12/29
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整理や収納の実践よりも「暮らし」が大切

 私は、仕事柄、何人もの片付けのプロの方にお会いしますが、辰巳さんはそうしたプロの方たちのような整理や収納の実践の話というよりは、いつも「暮らし」についての話をしていました。彼女が提唱する『家のコトは生きるコト』は、単に、片付けや、家事の作業ではなく、「人としての暮らしについて考えていく」生活について説くものでした。

 私は、すっかり辰巳さんに魅了され、彼女の元で家事セラピストについて学びました。そこでは「家事とは何か、すっきりした暮らしとは何か」について、「歴史の中で日本の暮らしはどう変遷してきたのか、またこれからどう変わっていくのか」、そして「自分にあった生活はどんなものなのか」について考えていきました。

 さらに辰巳さんは、生活を哲学として捉えることで社会に貢献したいと考え、2016年11月『生活哲学学会』を設立、同時に地域の産業を盛り立てるための人材育成事業として『生活・地域ファシリテーター』養成講座を2017年6月にスタートさせました。「女性の力がこれからの日本を変えていくのよ」と熱く語る姿は多くの女性に支持されました。

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独り立ちするすべての子どもたちへ

 今回発売になる辰巳さんの著書『あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと』の執筆は、2017年春に大学進学のために家を出たご長男を思ってのことでした。生活・地域ファシリテーターの第1期生として学びながら、仕事のお手伝いをしていた私は、似たような年頃の息子を持つこともあり「あなたなら、私の考えがわかるから」と制作の手伝いを依頼されました。2017年夏のことです。

 2018年4月、辰巳さんはさらなる事業展開を目指して、念願だった「株式会社 生活の学校」を設立しました。そんな多忙の中、半年以上の期間を経て、何時間にも及ぶ話し合いのもと、辰巳さんのお話を私が書き起こし、それを元に辰巳さんがご自身で執筆し、この本は制作されていきました。そして完成に近付いた2018年6月26日、大好きな北軽井沢で大好きなバイクでの事故で、辰巳渚さんは急逝されてしまいました。

写真:ご遺族より提供 愛猫とともに

 今も、私のパソコンには、本の制作のために録音した音声データーがたくさん保存されています。辰巳さんは、いつも楽しく朗らかな笑い声で語っています。辰巳さんのご子息やお嬢様だけでなく、独り立ちするすべての子どもたちに向けた、優しい想いがこの本には詰まっているのです。

 辰巳さんの想いを、ひとりでも多くの方に受けとってもらえることを願っています。

INFORMATION

辰巳渚さんの遺作「あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと」(文藝春秋刊)の出版を記念し、1 月 12 日 ( 土 )14 時30分より池袋コミュニテイ・カレッジで辰巳さんの生きた道を振り返りながら、人生100年時代に辰巳さんの哲学をどう生かしていけるのか、生前から親交の深かった各界の識者による特別講座を行います。(鼎談)光畑由佳(モーハウス代表)× 淀川洋子(家事塾代表)× 野上秀子(生活の学校代表・元セブンカルチャーネットワーク社長)お申込みはこちらまで。

 

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