「指導死」が社会問題になりにくい理由
一方、生徒指導をきっかけに児童・生徒が自殺をすることもある。こうした自殺を「指導死」と名付けた、大貫隆志さんも壇上に立った。2000年9月、大貫さんの次男・陵平くん(当時13歳)が自宅マンションから飛び降り、自殺した。実は、その前日、学校内でお菓子を食べた生徒21人が指導を受けていた。その中に陵平くんもいた。この学校ではルール違反をした場合、奉仕活動をすることになっており、さらに反省文を書くように指導されていた。
翌日、陵平くんを除く20人は反省文を提出した。そして、「家に電話をするので、事前に親に言っておけ」と伝えられていた。しかし、陵平くんは病気の疑いがあり、病院で検査をする日だったため学校を休んだ。そのため、家に電話があることを知らないでいた。そんな中で、家に電話があり、陵平くんが言う前に、母親が知ることになる。母親と陵平くんが話をした約40分後に自殺をした。「死にます。ごめんなさい。バカなやつだよ。自爆だよ」という遺書と、反省文が残されていた。
「当初は“なんてバカなことをしたんだ”と(息子のことを)責めていました。“なぜ、一言も相談をせずに死んでしまうのか”と。しかし、なぜ、死んだのかを父親として確かめないといけないと思いました」
その後、大貫さんは、同じように生徒指導をきっかけに自殺をした子どもの遺族に出会うことになる。社会問題とするために「指導死」という言葉を作り、「『指導死』親の会」という任意団体を作った。ただ、なかなか社会問題として可視化されないでいた。
「背景には、(児童・生徒を)指導する理由があります。そのため、なかなか問題性を訴えられず、表面化しにくいのです」
教師のちょっとした一言が……
鹿児島県奄美市で、いじめ加害者として間違われた中学生が、教師の家庭訪問後に自殺した。12月9日、この問題を調査していた委員会が報告書を提出した。大貫さんは調査委員として関わっていた。
「教師のちょっとした一言が、亡くなった子どものプライドを傷つけてしまったのです。配慮があれば、死なずに済んだはずです」
その上で、「減らすためのヒント」として、過去30年間の指導死を分析した結果からこうアドバイスをした。
「過去30年で、未遂を含めると、78件の指導死がありました。88%は指一本触れていません。13件は冤罪型であり、13件は指導中に子どもを一人にしてしまう安全配慮義務違反型です。少なくとも、3割近くの指導死は、子どもの言い分をきちんと聞いたり、指導中に一人にさせないことで防ぐことができたのです。教師に追い詰めようとする意思がなくても、子どもは追い詰められるのです。こんなことはいつまでも繰り返してはいけません」
今年度の研修会は今回で最後。教職を希望する多くの学生たちは、静かに遺族らの話に耳を傾けた。
ときおり涙を流す学生がいたほか、いじめに関する学校対応や指導死のことを聞き、「何ができるのかを考えた」という学生もいた。体育教師は生徒指導の担当になることも多いと言われているが、当事者の話を聞くことで、学校での振る舞いを考えるきっかけを得ていた。