「どんなに辛いことでも終わりがあるとわかっていたら、人は誰でも我慢ができます。しかし、いじめにはその終わりがありません。誰も止めてくれません。誰も助けてもくれません。それならこの先、生きていてもしようがないと考えるのが被害者です」

 兵庫県神戸市立小学校で当時小学校5年生だった男子児童Aくんが、13人の同級生から身体的・精神的な暴力を受け、また恐喝にあっていた。この言葉は、10年後の別のいじめ自殺裁判で、自身の体験を元に書いた意見書だ。

教師や指導者の仕事は立場ではなく、子どもを守ること

 日本体育大学スポーツ危機管理研究所が主催する「学校・部活動における重大事故・事件から学ぶ研修会」の「『いじめ』『指導死』の問題について“本気で”考える研修会」が12月13日、同大学の世田谷キャンパスで開かれた。壇上に上がったAくんの父親は、将来、教師や指導者を希望する日体大生に対し、「教師や指導者の仕事は立場ではなく、子どもを守ること」として、いじめを隠蔽しないように求めた。

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Aくんの父親 ©渋井哲也

 体育大学である日体大の研修でいじめや生活指導を取り扱うのは、日体大では教師になる学生が多いこと、また体育教師が生活指導に関わる機会が多いためだ。いじめ被害や指導死について、当事者家族・遺族の話を聞くことで、生徒理解や指導のあり方を学生時代から学ぶ機会を提供している。

 Aくんの父親によると、いじめの期間はAくんが小学校5年生だった2005年4月から翌年2月まで。「きしょい」「うざい」「死ね」「消えろ」といった言葉の暴力、「K-1ごっこ」と称して殴る、蹴る、廊下を引きずるといった暴力、持ち物に落書きをしたり、壊したり、隠すといった行為、約50万円の恐喝に及ぶ。

 2月にいじめに気が付いた父親が担任に電話をすると、翌日、自宅へ担任がきた。担任は「そうやったんか。先生、今までいじめられていたこと何も知らんかった。よくわかったぞ。安心しいや」と話し、涙目になっていた。父親は「わかってくれた」と思っていた。しかし、発覚から9日後、その担任は校長や教頭の前で「私がいじめを見過すはずありません。つい1ケ月前にも加害者らにいじめの指導をしました」と弁明をしたという。

「担任はいじめを知っており、見て見ぬふりをしていたのです。涙は演技であり、息子のために流したのではなかったのでしょう。保身だったのでしょうか」

学校は二枚舌を使っていた

 その後、学校はアンケートやヒアリングの調査をした。結果として校長は「いじめでした」と説明をしたという。しかし、その後もいじめはおさまらなかった。というのも、学校は、いじめの加害者側には「いじめではない」と説明し、二枚舌を使っていたというのだ。

「学校は、教育委員会に対しては『いじめ』や『恐喝』と報告しています。しかも、裁判になったときには、教委は『被害者側の証言拒否により、調査ができず、いじめかどうか判断できない』との文書を提出しました。裁判所に“保護者が調査の邪魔をした”と嘘をついたのです。明らかな捏造です。結局、裁判では、『いじめ』も『恐喝』も認定されました」

©iStock.com

 神戸市では「いじめ解消率100%」と公表し続けてきた。しかし、Aくんの案件に加えて、2016年に女子生徒(当時14歳)が自殺していた問題でも、いじめを疑わせる聞き取りメモがあったにも関わらず、市教委幹部が校長に隠蔽を指示していたことが発覚した。

「なぜいじめを隠蔽しようとするのでしょうか。いじめ対応は教師にとっては面倒な仕事なのかもしれません。多数の加害者を指導するよりも、一人の被害者を黙らせる方が楽なのでしょう。学生のみなさんには、校長や先輩教師の言うことの中で、正しいと思ったことだけを守ってください。声をあげられない場合は、仲間を募って校長に申し入れをしましょう。それもできない場合は、マスコミに内部告発したり、公益通報者保護制度を利用してください」