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メアリーからの「呼びかけ」に「応答」しなくなるフレディ

 映画はこのあと、逆にフレディの側が「応答」を拒否する場面を描いていきます。メアリーが、メンバーと離れてソロアルバムの制作に打ち込むフレディを心配して電話をかけても、電話口に出たポールが取り次いでくれないせいで、彼女の「呼びかけ」にフレディが「応答」できなくなるのです(※1)。

メアリー・オースティンを演じたルーシー・ボイントン(左)とフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレック(右) ©Getty Images

「呼びかけと応答」のすれ違いが解消されるのは、フレディを気にかけたメアリーが直接彼を訪ねる場面です(※2)。メアリーが妊娠したことをめぐって険悪な雰囲気になりながらも、「私やバンドのみんなはあなたの家族なのよ」、「家に帰って」という彼女の「呼びかけ」がフレディの心に届きます。彼はそれに「応答」する形でポールに解雇を言い渡し、爛れた生活から抜け出そうとするのです(解雇されたことに対するポールの「応答」はゴシップの暴露という歪んだ形であらわれます)。メンバーの元に帰ることを望んだフレディは、マネージャーのジム・ビーチ(トム・ホランダー)に「電話」をかけ、彼に仲介を頼むことでその希望を叶えます。

 同様の物語はフレディと彼の新恋人になるジム・ハットン(アーロン・マカスカー)をめぐっても展開されますが、ここではフレディが「電話」帳の住所を手掛かりにしてジムとの再会を果たしたということを指摘するにとどめておきます。

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「呼びかけと応答」をめぐるこれらの物語は、最後のライヴ・エイドのシーンで一挙に結実します。それによってあの爆発的な感動が生み出されるのです。次の記事では、ラストシーンを振り返りながらそれらの仕掛けを一つひとつ確認していきましょう。彼らのショーはまだ続きます。

 

 

 (※1)メアリーの電話と同様に、ライヴ・エイドの話を伝えるためにジム・ビーチがかけてきた電話もまたポールによって黙殺され、その「呼びかけ」がフレディに届けられることはありません。

(※2)メアリーがフレディを直接訪ねてきた理由として、彼女は「嫌な夢を見たから」だと説明します。夢のなかのフレディは、声が出なくて苦しんでいたと言うのです。もちろん、これはフレディの周りに彼の心の声を聞いてくれる人がいないことを象徴的に示すものですが、じっさい、このあとメンバーと和解し、ライヴ・エイドに向けて教会で練習を行う場面で、ブランク(とおそらくは病気の影響)のあるフレディは思うように声が出せません。さらに、この細部が意義深いのは、フレディがメアリーにプロポーズした場面を反転しているからです。婚約指輪を差し出され、結婚を申し込まれたメアリーは、感動のあまり言葉を失ってしまい、ひたすらうなずくことで声にならない「応答」を試みます。そのあと、「声に出して言って欲しい」と言いたげなフレディのジェスチャーに応えて、はっきり「Yes」と発声するのです。象徴的にも物理的にも声を失っていたフレディは、かつてのメアリーのように、やがて声を取り戻すことになるでしょう。