さすが、貫禄の大人気である。アート関連でいま最も客を呼べるコンテンツといえば、国内ものだと伊藤若冲。そして海外ならフェルメールで決まり。そのフェルメール作品が9点も来日しているというからすごいことだ。彼はそもそも寡作であって、現存するのは30数点しかないというのに。
それでは開幕から2ヶ月以上経ったいまでも、行列が絶えないのは致し方ないところ。東京・上野の森美術館での、その名も「フェルメール展」だ。
同時代画家の作品を観てから、いざフェルメールへ
会場に入って、「いざフェルメールとご対面!」と張り切っても、最初は肩透かしに遭う。すぐには彼の作品とは出合えないから。まずはハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヤン・ステーンら同時代に活動した画家の作品が延々と並んでいる。そこで17世紀オランダ絵画とはこういうテイストなのだなと、しかと確認しておこう。そのうえで最後の展示室へ赴けば、そこに来日したフェルメール作品がすべて集められている。
広い空間にずらり掛けられたフェルメールは、やはり圧巻。いつ行ってもそれぞれの絵の前は人だかりで容易に近づけもしないけれど、遠目に眺めるだけで「華があるな」と感じ入る。
ここに行き着くまでに観てきた他の同時代作品と、明らかに何かが違うことにはすぐ気づく。いったい何がそんなに異なるのか。室内の雰囲気や人の衣装など、描かれているものそれ自体は似通っている。でも、緻密さには差があるように感じられる。フェルメールが格段に描写力があるかどうかは判別しかねるけれど、図抜けて丁寧に筆を運んでいることはわかる。
他の画家が次々と舞い込む注文に応じて制作していたのに対し、フェルメールは依頼を受けるかたちではなく、みずからの意思で作品を仕上げていたという。それゆえ作品数が少ないのだけれど、自分のペースで描き続けたことは作品の完成度に少なからぬ影響を与えているだろう。