中学受験のダークサイドに堕ちてしまうのは親だけではない。中学受験生の親は、子供が自らダークサイドに堕ちてしまうリスクにも注意しなければならない。

親を喜ばせたい一心でカンニング……

 塾のテストでどうしてもいい点数がとりたくて、ついカンニングをしてしまったというのは、ダークサイドに片足をツッコんでいるサインにほかならない。その背景には当然、いい点数をとらなければいけないという過度なプレッシャーがある。

 不正は不正として指摘したうえで、不正を責めるだけでなく、なぜ「不正をしてまでいい点数をとらなければいけないと思ってしまったのか」に目を向けなければならない。多くの場合、原因は親だ。

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 また、自分より偏差値の低い友達のことを見下したり、塾のクラスのレベルで友達の価値を判断したり、偏差値の低い学校に通っている生徒のことをバカにしたりという症状を発することもあるかもしれない。子供の未熟さゆえに、そういう過ちを犯すことはある意味しょうがないといえる。いつかそれが過ちであることに気付ければいいのだが、いつまでも気付けない場合が危険である。

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 そのままの価値観で人生を送るようになると、いわゆる「自己責任論者」のできあがり。「自分は努力していい点数をとって勝ち組になった。負け組のひとたちは努力が足りなかったのだから自業自得。社会として助けの手を差し伸べる必要などない」と言ってはばからないひとに育ってしまう。これでは社会のリーダーにはなれない。

ひとと比べることでしか自分を肯定できなくなる

 さらにそのようなひとたちには実は、他人と比較することでしか自分自身の価値を認めることができないという弱さがある。他人と比べて年収が多いとか、地位が高いとか、そういうことでしか、自分の人生を肯定できなくなってしまうという、ある種の病である。いつまでも自分の人生を自分のペースで歩むことができなくなる。

 そんなことでは、中学受験に“成功”しても、人生は“大失敗”。棺桶に片足を突っ込んでからそのことに気付いても、遅い。

 中学受験という経験が子供を、視野の狭いせこい点取り虫にしてしまう可能性もあるわけだ。これが世間一般に侮蔑のニュアンスをもっていわれる“受験エリート”生産のしくみである。

 思春期前のこの時期には、子供は自分の価値観よりも親の価値観を通して世の中を見ている。親が、浅ましい人生観で中学受験にのぞんだら、子供も視野の狭いせこい点取り虫になってしまう。逆に、親が中学受験の本当の価値を理解していれば、子供に「生き方」を教えることができる。それならば、子供が中学受験のダークサイドに引きずり込まれてしまうこともないはずだ。