2018年10月7日神宮球場。対阪神24回戦。先発の石川雅規が5回無失点に抑え、2番手の大下佑馬に繋ぐ。打線は5点を挙げ、神宮のヤクルトファンには「勝てる!」という空気が流れていた。

 7回裏。ルーキー塩見泰隆が打席に入った。ファンのボルテージが上がる。何しろチームは既にシーズン2位を決め連勝中。試合はヤクルト有利。ならば後は。

「塩見のプロ初安打が見たい!」

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 そんな熱気で盛り上がる。

 ルーキー塩見はここまで24打席無安打。二軍では打ちまくってきた。そこまで打てない選手とは思えない。1本出れば打ち出すのではという期待がある。投手は左の岩崎優。打った。当たり損ねの打球がフラフラとライトに上がる。思わず皆が「落とせ!」と叫んだ打球は、ライト中谷将大のグラブに収まらず、地面を転がった。Eか? Hか?

 Hが点灯し、大歓声が上がった。その前に俊足を飛ばした塩見は二塁に達していた。プロ入り初安打は二塁打と記録された。

 塁上で安堵の表情を見せた塩見は、次の三ゴロで進塁し損ねるというポカもあったが、バレンティンの適時打でプロ初得点も記録した。

「一生打てないかと思いました」

 そんなコメントを残したが、「イノシシを追って鍛えた」足を持ち、「超人的」なプレーをするとスカウトに評された塩見泰隆。こんなものではないはずだ。

2017年ドラフト4位の塩見泰隆 ©HISATO

ルーキー塩見は「ヤバイ男」

 今年1年の塩見を振り返り、我が意を得た思いのハッシュタグがある。

「#ヤバイよ塩見」

 2018ルーキー塩見は、「ヤバイよヤバイよ」でお馴染み出川哲朗の高校の後輩だ。出川の実家である海苔問屋の海苔と、自分の名前入りのヤクルト用ジョッキを持って入寮した。熱烈なヤクルトファンである出川も後輩だと知っていて、TV番組の収録で春季キャンプを訪れた際、小川監督に塩見の起用を直訴したりもした。

 足が速いのが一番の売りで、走塁>守備>打撃の順で自信があると自分では言っていた。だが蓋を開けてみると、まず打撃が目を引いた。オープン戦で本塁打を打ち猛打賞を記録するなど、首脳陣も「予想外」という打撃を見せる。時折凡ミスはあるものの、それを補って余りあるポテンシャルを感じさせた。

 青木宣親が復帰したスワローズの外野は、ベテラン坂口智隆さえ一塁に回るような布陣で、バレンティン、雄平と外野レギュラーはほぼ決まっていた。それでも塩見は開幕一軍に残れるだろう、そう思わせる活躍だった。

 新聞の見出しには先輩出川にちなんで「ヤバイよ」が見られ、それを見たファンが「#ヤバイよ塩見」タグを作った。流れてきたそれを見て、これは上手いと使い始めたその矢先。タグが流行る前に、塩見は左手首を痛めた。オープン戦5割の成績のまま、ファーム暮らしを余儀なくされていく。4月に一旦二軍戦に復帰するものの、再び離脱。この後7月まで長いリハビリとなった。

 ルーキーイヤーの故障。焦りも不安もあっただろう。社会人出身の25歳ともなれば尚更だ。そんな心配をよそに、7月二軍戦に復帰した塩見は、またすぐに打力を見せつけることになる。

 スピードが売りの選手らしく体つきは細い方と言っていいのだが、見た目に反してまずスイングの鋭さに驚く。打球音も半端ない。足で稼ぐ長打だけでなく、飛距離も打球の速さも群を抜いている。7月のイースタンでは3戦連続も含め、7/24から8/18までの10試合で8本塁打と爆発した。目の前で見たら笑うしかない見事さだった。ブルペンスタッフから素で「あいつヤバイな」という呟きが漏れた時に、心底思った。

「塩見ヤバイ」