NewsPicks編集長、佐々木紀彦さんは33歳で「東洋経済オンライン」編集長に就任。それまでの “手堅い経済ニュースサイト”のイメージを一新、一躍人気オンラインメディアへと成長させました。いかにPVを増やすか、30代をターゲットにするという経済メディアとしての冒険――。大きな方向転換を果たしたその背景をじっくり語っていただきました。
「個人主義者」たちをターゲットに
――NewsPicksに移る前に編集長を務められていた、「東洋経済オンライン」のお話を伺ってもいいですか?
過去2年半の「東洋経済オンライン」については、私は語る資格はないですから、現編集長の山田俊浩さんに聞いていただいたほうが(笑)。私が辞めた後に、「東洋経済オンライン」はすごいスピードで成長して、月間2億PVを超えたそうですから。
――とはいえ佐々木さんが編集長になってから、一気に月間5000万PVまで数字を伸ばし、そのインパクトは相当なものがありました。リニューアルにあたって「東洋経済オンライン」はメインのユーザー層を30代ビジネスパーソンに設定されたそうですが、そこにはどのような狙いがあったのでしょう?
まずは単純に団塊ジュニア世代で、人数がいるということです。ボリュームがある層なのに、読みたいと思える経済メディアがなかった。そこを狙いました。
もうひとつは「日経ビジネスオンライン」「ダイヤモンド・オンライン」という強力なメディアが、すでに40~50代に浸透していたことです。ここでは勝てない、つまり弱者の戦略で空いているマーケットを狙ったということです。
――経済誌から派生したメディアとしては冒険ですよね。
大きな不安は広告でした。40代以上の層は経済力があり、かつ社内でも影響力があるため、40、50代をターゲットにしたほうが広告を取りやすい。そのため、30代をターゲットとすることに対して広告営業側からは懸念の声も聞かれました。
――30代向けコンテンツとして、どんなことを?
はい、当時掲げたキャッチコピーは、なんでしたっけ……思い出しました。「新世代リーダーのためのウェブサイト」でした。忘れちゃだめですよね(笑)。すいません。
これからの時代を作っていく人たちを紹介し、等身大の生きざまを描けば、生き方の参考になるし、やる気も出るだろうと思ったんですね。象徴となったのが「新世代リーダー50人」という連載企画でした。まだ経済メディアにあまり登場していない若いリーダーたちを、当初はほぼ毎日、一人ずつ紹介していったんです。
――毎日更新! それは聞くだけで胃が痛くなります……
記者は本誌の仕事で忙しいので、自分でもかなりの記事を書きました。外部のライターの方々にインタビューしてもらったり、注目の人物に記事を寄稿してもらったりと、外部の人を積極的に巻き込む試みでもありました。
それまでは、東洋経済オンラインの記事は、社内の記者が書いたものが中心だったのですが、そこをオープン化し、各界で活躍するプレイヤー自身に記事を書いてもらいました。いわばCGMの要素を少し入れてみた、とも言えます。
そもそも、若い世代を取り上げたのは、私自身も当時33歳でしたが、上の世代とはだいぶ価値観が違う気がしていたからなんです。
――その価値観の違いを言葉にすると?
個人主義の度合い、でしょうかね。
私は1979年生まれで、サッカーでいえば中田英寿や小野伸二、稲本潤一といった「黄金世代」にあたるのですが、彼らのような尖った生き方が「かっこいい」という価値観が強かったと思います。今となってみればちょっと行き過ぎの個人主義ブームだったと思うのですが(笑)。そうした同世代の読者に対して、組織に依存せずに世界で活躍したいと思う人たちにとってのロールモデルを提示すれば、きっと読まれると考えたのです。
先行する日経ビジネスオンラインやダイヤモンド・オンラインとの差別化では、女性読者の獲得も意識しました。女性の総合職が増えたといわれる「ナナロク世代」、76年生まれの女性たちは、女性の意識という意味でもターニングポイントにあたる人たちです。彼女たちに読まれそうな記事を増やしました。