1ページ目から読む
2/3ページ目

呆れるほどよく燃えた炎上記事

――経済メディアとしてはかなりの冒険だったと思いますが、具体的にどんな記事を?

 評判が良かったのは「ワーキングマザー・サバイバル」のシリーズです。

 社会の中でバリバリに働いて実績も上げているのに、出産、子育てが高い壁となって彼女たちの前に立ち現れる。さまざまな現場で活躍するワーキングマザーの人生や日常生活に迫る企画で反響も大きく、『凄母(すごはは)』というタイトルで単行本にもなりました。この連載を書いた佐藤留美が、いまNewsPicksの副編集長になっています。

ADVERTISEMENT

 東洋経済オンラインは女性記者も多くて、NewsPicksよりも女性向けの記事は多かったんですが、NewsPicksはどうも女性受けが悪くて「男子校」と呼ばれています(笑)。読者の8割が男性なのです。

 東洋経済オンラインでは、いろんな企画にチャレンジしましたが、批判をいただいた企画もありました。私は大のお気に入りだったのですが、「エリート美女のすべて」という連載は、賛否両論でした。

 この企画も「ワーキングマザー・サバイバル」と狙いは似ていました。仕事がバリバリできるエリート女子は確実に増えているのに、彼女たちの本音が語られているメディアがほとんどない。だからおじさん上司や同世代の男たちは彼女たちへの接し方がわからず、コミュニケーションギャップが起こる。だからこそ、エリート美女の本音がわかれば、女性も男性も今より理解が進むと思ったのです。

 批判されたのは、タイトルにも原因がありましたね。なにせ毎回タイトルが「30歳を過ぎると恋愛市場のルールが変わる? 真木よう子似、コンサル出身美女と語る」「なぜ男は“高学歴美女”に惹かれるのか? 石原さとみ似の慶応卒エリート美女と語る」といった刺激的なものでしたので(笑)。

 

――そのノリは「週刊文春」か「週刊新潮」っぽいですね(笑)。

「週刊文春」を読みすぎたのかもしれません(笑)。私のいた時代の東洋経済オンラインが生んだ最大のスターは、名物企画「グローバルエリートは見た!」のムーギー・キムさんですね。この連載は、ページビュー100万超えを連発する大人気企画となり、ムーギーさんの書籍もベストセラーになりました。

 最近、キムさんが書かれた『最強の働き方』(東洋経済新報社)はあっという間に20万部を突破しています。いまやカリスマ著者の一人ですが、書き手としての本格的なデビューが「グローバルエリートは見た!」だったのです。

――どうやって発掘されたんですか?

 大学時代からの知り合いです(笑)。学生時代から、とにかく発想が豊かで自由で面白い方だったので、この方にグローバルエリートの視点から縦横無尽に書いてもらえばきっと面白いだろうと。プロではない書き手を巻き込んだ企画の大成功例がキムさんですね。私の大恩人です。

 プロでない書き手の方のハードルになるのは文章力です。話が面白い人がみな文章も面白いわけではありません。うまく書けなかった方もたくさんいます。その点、キムさんは刺激的すぎてときどき炎上することもありましたが(笑)、書き手としても一流でした。

――書き手を発掘するという意味では、紙メディアの編集者と同じですね。

 一緒です。ウェブのほうが紙幅の制約もないぶん、少し敷居は低いとは思います。

 当初の「東洋経済オンライン」は期待値が低かったこともあって(笑)、失うものはないという姿勢で貪欲に筆者を開拓していきました。リスクがあってもハイリターンの書き手にどんどん投資していくための媒体という、社内ベンチャー部門のような存在でしたので、やりやすかったですね。

 サッカーの代表にたとえると、フル代表が紙の『週刊東洋経済』で、将来、紙で活躍する新人を発掘するのが、U-23(23歳以下)代表という感じでしょうか。U-23ではあまり硬くならずに実戦経験を積んでもらい、そこで実績を出したら、フル代表である紙媒体にデビューしてもらう感じです。

――サッカーで喩えるのがお好きなんですね(笑)。

 今の「東洋経済オンライン」は、山田編集長の下、ナンバーワンメディアになっていますので、「ウェブ=U-23」「紙=フル代表」という関係性はだいぶ変わっているかもしれませんね。