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「ひとつでも上の順位を」関東学連チーム率いる山川達也監督が学生に求める心意気

非エリートの指導者は、麗澤大学を「あと一歩で箱根」まで押し上げ……

2019/01/01

「一気に空気が変わることなんてないんですよ」

 そんな風にチームの雰囲気が変わってきた最大の理由は何なのだろうか。それを尋ねると、山川は少し考えてからこう答えた。

「うーん……結局は積み重ねでしかないのかなと思います。簡単に、一気に空気が変わることなんてないんですよ。練習をやっていく中で『これだけやらないと強くならない』ということが分かることもあります。コーチ時代には、箱根に行くことがどれだけ難しいか、すごく教えてもらった気がします。普通にやっていたんじゃダメで、マグマのような、熱いチーム性が出てこないとダメなんだと。苦労している時は、こんな思いをしても絶対に返ってこないと思っていたんですよ(笑)。『もう辞める、無理だ』と思った瞬間も多々ありました」

 そんな山川の想いは少しずつ選手たちにも届いていた。一足飛びに箱根駅伝という夢舞台に向かうわけではなかったが、それでも、陸上競技に対して前向きに向きあえる選手たちが増えてきていた。

麗澤大学陸上部の山川達也監督(右、Twitter)

「どの選手でも現役時代の僕よりは速いわけですから(笑)」

 2017年、コーチから監督に就任。

 すると愚直に目の前の一選手を大切に、無我夢中で走ってきたその年月がようやく実を結び始めた。

「この前、大学に赴任したばかりの頃の教え子の結婚式に呼ばれて行ったんですよ。そうしたら『当時自分はケガをしていて、その時に山川さんが朝早くから1時間くらいずっと一緒にウォーキングをしてくれた。それをいまでも覚えている』という話をしていたんです。『こういう人がいなかったら4年間、自分は部活を続けられなかった』と言っていて、そんなことやっていたんだと(笑)。もう自分ではハッキリとは覚えていないんですけど、そういう風に、ちょっとでもチームが良くなればと思ってやっていたんでしょうね」

 山川に話を聞いていて気付いたことがある。

 それは、何度も「良い選手に恵まれている」「能力のある選手はいる」という言葉を繰り返したことだ。

「だって、どの選手でも現役時代の僕よりは速いわけですから(笑)。みんなすごい力を持っていると思いますよ」

 箱根駅伝に限らず、新興校の指導者はとかく「ウチには才能のある子はいないので、練習に工夫を」とか「一流の素材は来てくれないなかでどう戦うか」といった言葉を口にすることが多い。それは指導者自身が選手としての実績豊富ゆえのケースもあるのだろう。

 一方、実績的には決して恵まれているわけではない環境に身を置きながら、こうした言葉を紡げるところに山川の人間性を感じた。きっと、そういう雰囲気は自然と選手にも伝わる。それこそが、チームの空気感を変えた最大の要因のように感じた。

写真提供:山川監督

そんな気概は監督の中にもありますか?

 朴訥とした語り口で、常に丁寧に質問に答える山川の口調からは、いわゆる体育会系の色を感じることはない。選手に言わせれば「親しみやすい、いじりやすい監督」で、「記録会でも、顔を合わせた他校の指導者にいじりたおされている」のだという。

 だが、優しいだけでは勝てないのはスポーツの常だ。山川の芯の強さが見えたのは、スカウトの話題に触れた時だった。

「高校生には『箱根駅伝に出ている大学に行きたいです』という子が多い。でも『だったらいいよ』と思うんですよね。正直、2年後、3年後に箱根にどの大学が出ているかなんて、分からないわけです。だったら『ひとつでも上の順位を獲ってやる、上の大学を引きずりおろしてやる』、『自分がやってやる』という気持ちがあるかどうかが大事だと思う、という話をしています。それに乗っかってくる子には、別にタイムなんてなくても『やろうよ』といいますね」

 そんな気概は監督の中にもありますか、と尋ねると間髪を入れずにこう答えてくれた。

「もちろんです。そうじゃないと、面白くないでしょう?」