「本当に箱根に行けるんじゃないかという気持ちになれたのも、行けなくて悔しいという気持ちになれたのも、今年が初めてでした」
悔しさで泣きじゃくる部員たちを前に、麗澤大学の山川達也監督はそう、ねぎらいのことばをかけた。
2016年22位から一気にジャンプアップした
2018年10月に立川で行われた箱根駅伝予選会。上位校が順当に予選を通過していく中で、周囲に最も驚きを与えたのが12位に入った麗澤大だった。あと1分50秒。11位までが本戦出場権を獲得できる予選会で次点という結果に終わり、惜しくも箱根への初出場は叶わなかった。
それでも2016年22位、2017年15位という順位から一気に次点へとジャンプアップした成長速度は特筆に値する。各校が宣伝効果を求めて力を入れ始めている昨今のハイレベルな箱根駅伝への出場争いの中で、これだけ急激に力をつけ、順位を上げられるチームはなかなかない。
その原動力となったのが、9年前からコーチとしてチームを支え、2017年からは監督として指揮を執る山川の存在だ。
「力のある子はこれまでもずっと来てくれていたんです。ただ、本気で『箱根に行きたい』とか『自分たちでやるんだ』という雰囲気が、正直足りなかったのかなと。そういう部分を彼らと一緒に考えながら、少しずついまに至っているという感じです。今回も12位になりましたけど、それでも悔しいと思ってくれる子たちが多かった。そうやって本気で箱根に出たいと思ってくれていることが一番の収穫だと思います」
「じゃあもうお前ら、自分で考えてやれよ!」と突き放すと……
山川は福井県の高校で陸上競技を本格的にはじめると、愛知県の中京大学に進学。卒業後は、同県内の私立高校に勤務した。
そこでの指導が山川の原体験だ。
「最初は自分がやってきたメニューをそのまま教える形でやっていたんですけど、全然上手くいかなくて。生徒からの反発も結構あったりして、『じゃあもうお前ら、自分で考えてやれよ!』って突き離したんです。そしたら急にみんな伸び始めた(笑)。それでやっぱり、『押し付けるだけの指導じゃダメなんだな』ということを実感しました」
その分、練習以外の部分で生徒たちと趣味やマンガの話をするなど目線を下げることを意識し、トレーニング以外でのコミュニケーションをとにかく重視した。そうして山川の下、自主性を重視し考えるトレーニングに重きを置いた陸上部は、どんどん強くなっていった。そんな手腕を見せた山川に「大学の駅伝部でコーチをやってみないか」という誘いが届くことになる。
だが、そうして踏み入れた大学駅伝の世界は、決して簡単なものではなかったという。