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スクープは本来、お金を出さないと読めないはず

――逆に課金と相性の悪いコンテンツはどんなものでしょうか?

 残酷な言い方になってしまいますが、もっとも相性が悪いのは新聞が得意としてきたタイプの速報記事、ファクト重視の記事だと思います。

 これらの記事は、ネットの時代には、すぐに拡散されてしまい、消費されてしまいます。PVは稼げても、課金には向かないところがあります。そこは雑誌的なスクープ記事とは似て非なるものですね。ファクト重視の一次情報は、社会にとって極めて重要ですので、そのコストをどう支えるかは、大切なテーマです。
 
 雑誌的なスクープは高い取材力と多くのコストが必要になりますので、スクープを新興のウェブメディアがコンスタントに打っていくのは容易ではありません。

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 それだけに、文春さんが本気で有料のスクープ記事を配信したらドカンと当たると思いますよ。スクープを有料メディアでやることには大きなポテンシャルがあると思います。

 

――ははあ、プレッシャーですね……。でも、文春の雑誌への並々ならぬ愛情と熱が感じられて嬉しいです(笑)。

 これはお世辞抜きで、日本のオンラインメディア空間を変える最後の希望は文春さんだと思いますよ。

 オンライン空間では日経以外の伝統メディアが稼げず、死屍累々です。まだオンラインに本格参入していない伝統メディアで、有料モデルを成立させうる圧倒的なコンテンツ力を持っているのは文春しかないと思います。

 スクープ記事や優良な記事はお金を出さないと読めないというカルチャーは、ニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムズが確立させたわけですが、日本では文春さんがその役割を担いうるはずです。有料化のためには、サービス、テクノロジー、流通など総合力が大切ですが、最後にモノを言うのは、やっぱりコンテンツ力ですから。 

 文春さんの場合、オンラインの無料コンテンツと有料コンテンツは役割を明確に分けたほうがいいと思います。無料コンテンツはヤフー!などのプラットフォームをうまく活用して、文春オンラインへの流入を促し、流入してきたユーザーに有料コンテンツをうまくおすすめして、有料会員にもなってもらう。

 これまでの日本のメディアはヤフー!など外部のプラットフォームにコンテンツをなんでもかんでも流しすぎたと思います。言い方を変えると、新聞や雑誌は紙が強かったがゆえに、どうしてもウェブを紙の宣伝媒体として見てしまったため、ウェブ戦略が二の次になってしまいました。そのツケが今になって現れています。アメリカでは新聞の紙の衰退があまりに早かったので、ウェブへの移行を真剣に考えざるをえなかったんですね。

 

――文春を有料化させるとして、どんなやり方がありそうでしょうか?

 新しい記事も、過去の雑誌記事のアーカイブも全部読めるとなれば、いくら払うか……月額2000円くらいとってもいいのではないでしょうか? 安いくらいですかね。

――こってり作り込んだカロリー高めの記事が多いので、ウェブで果たして読まれるのかという不安もあるんですが。

 完全にスマホ一辺倒にせずに、PCからのアクセスも意識すれば良さそうな気がします。文春はシニア層の方のファンも分厚いですので。

 以前、文字拡大版の『文藝春秋』も売れましたよね。ああいう風に文字拡大機能を付けるとか、プリントアウトしやすくするとか、機能面でのプレミアムも含めた有料化がありうると思います。

 文春さんは常に何らかのネタがありますから、有料会員限定である日は芸能ネタ、ある日は政治ネタと毎日プッシュ通知していけば……私は絶対に入りますね(笑)。

 有料モデルの良い点は、スポンサー企業とのコンフリクトを避けられることにもあります。広告主についてのジャーナリスティックな記事を掲載するのは難しいケースもあるでしょうから。スクープは文春さんの最大の武器ですので、広告モデルとは相容れない部分が大きい気がします。

――NewsPicksでも広告記事は掲載されていますが、ほかの記事とはどのような線引きを?

 編集部と広告営業は完全に分離しています。そこは東洋経済時代に学んだ基準で厳しくやっていますし、しっかりとしないといい記者が来てくれない。

「広告主がNGだから」という理由で記事にNGを出したことはありません。それをやったら終わりだと思っています。今までのウェブメディアには、こうした基準がなかったのも大きな問題でした。そのままとは言わなくても、紙のルールを踏襲したほうが長期的にはプラスになると思います。紙の文化から学ぶことはたくさんあります。

 

――「WELQ」などの問題発覚以降、NewsPicks内でルールの見直しや、既存記事の検証などはありましたか?

 われわれは、プロの書き手が、オリジナルで記事をつくっていますので、WELQのようなことはありません。ただし、これまで以上に、信頼や正確性が大事になることは間違いありませんので、よりクオリティを高めようと編集部では話しています。

――問題直後から「DeNA 歪みの遺伝子」などの記事を掲載されてきましたが、その意図をお聞かせいただけますか。

 DeNAの持つ社風、ウェブメディア業界の問題点などを、しっかり検証したいと思ったからです。

 私も15年間メディア業界にいますが、メディア事業とは簡単に儲かるビジネスではありません。社会に役立ちながら、しっかり収益を上げることの難しさを日々痛感しています。今回のWELQ事件は、メディアという公共性の高い事業を、確たる倫理観なしに行うことのおそろしさを知る、いい機会になったのではないでしょうか。

――キュレーションメディアについては「他人の褌で相撲を取っている」といった批判が根強くあり、今回の事件でまた少しだけ強まった印象があります。現在のNewsPicksが考える「キュレーションの意義」はどのようなものですか?

 キュレーションの意義は、読者の方々にとってと、メディアパートナーの方々にとっての二つの意味があります。読者の方々にとっては、さまざまなニュースがひとつの場所でまとめて読めることがいちばんのメリットだと思います。いわば、ニュースの百貨店です。

 そしてメディアパートナーの方々にとっての主なメリットは、キュレーションメディアという“店舗”を通じて、自社の記事を多くの方に読んでもらうことができ、それが広告収入につながることです。

 そうした意義を、読者の方々、メディアパートナーの方々に十分感じていただけるかがいちばん重要なポイントです。その意味で、キュレーションメディアとしてのNewsPicksにはまだまだ課題があると思っています。

 今後、注力したいのは、有料メディアのキュレーションです。つまり、NewsPicksの1500円の有料会員になれば、NewsPicksのオリジナル記事だけでなく、メディアパートナーの有料記事も読めるという形にしていきたいのです。すでに経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルの記事は、すべてNewsPicksで読めるようになっています。そうしたパートナーの方々を増やしていくことが目標です。コンテンツにお金を払うという文化を、他のメディアの方々とタッグを組みながら広げていきたいのです。