「オンラインメディアの有料化を成功させるには、5つの法則があるんです」。NewsPicks編集長佐々木紀彦さんに教えを乞うたところ、とっておきの秘策を伝授してくれました。ニュースの読み方もきっと変わる「5つの法則」、初公開です!
ずっと手元に置いておきたいデザイン
――21世紀に入ってさまざまなウェブメディアが立ち上がりましたが、有料化へのシフトを果たせなかった、あるいは撤退してしまったところも少なくありません。あらためてお伺いしたいのですが、NewsPicksが有料化に成功した要因はどこにあったのでしょうか?
最近、講演などで「有料化5つの法則」というのをいつも話しているんですが……何度話してもすぐに忘れてしまう(笑)。ちょっとパソコンでチェックしますね。この法則は、経済メディアに限った話かもしれないですが、ほかのメディアの方々にも参考になるかもしれませんので、ホワイトボードに書いてみますね。
1つ目の「特集化」は、記事単独ではなく、パッケージで勝負するということです。NewsPicksでいえば1週間単位で連続した記事を掲載しています。記事1本で勝負せずに、デザインも統一感をもたせてシリーズ化することです。雑誌の特集と似ています。たとえばドラマでも、単発の1本のドラマでは課金は難しいでしょうが、10本シリーズになるとお金を払いたくなりますよね。海外の連続ドラマが典型例です。
2つ目の「人物」というのは、とにかく、尖った個人にフォーカスする。テーマより個人の名前を前面に押し出すということです。
たとえば「日露関係がどうなるか」といった記事は、重要なテーマですのでもちろんやりますが、あまり課金にはつながりません。それよりも「鈴木宗男が語る日露関係」「プーチンが語る日露関係」としたほうが、リピーターを獲得しやすいのです。課金させてもらうには、テーマだけでは不十分で「誰が書いているか」「誰が語っているか」がポイントです。その意味で、書籍と似ているかもしれません。
3つ目に、スマホ時代には「デザイン」の重要性が増してきています。当初、デザインを丁寧にやると時間もお金もかかるので、あまりこだわらないほうがスピーディーでいいと思っていたのですが、デザインにはしっかり投資すべきです。
デザインで見やすくすること、高級感を醸し出すことは課金の可否に非常に関係してきます。保存しておきたい雑誌は、ずっと手元に置いておきたいと思うようなエディトリアルデザインがなされていますよね。
たとえば、「Number」でも執筆されているスポーツライターの木崎伸也さんが、NewsPicksのデザインについて、ツイッターでこう書いてくれたのはとても嬉しかったです。
ここで登場する櫻田は、インフォグラフィックという表現手段の日本の第一人者です。当然ながら、読み手だけでなく、書き手にとってもデザインは大事なんですよね。2017年はデザイナーをさらに増やして、デザインをよりいっそう強化します。
4番目の「分析」は、深い分析系の記事ということです。
たとえば、ソニーの企業戦略を分析するといった記事は、無料サイトでは「硬い」と敬遠されがちなのですが、有料ではむしろ堅いものほど信用性の高さを買われて読まれる傾向があります。無料メディアでは、情報のエンタメ性、読みやすさ、インパクトがカギを握る傾向がありますが、有料メディアでは、クオリティと深さが問われます。
そして最後が「スクープ」です。いうまでもなく文春さんの十八番ですよね。これはやっぱり効きます。
文春さんのように調査報道を行って、毎週のようにスクープを出すのはNewsPicksでは難しいですが、話題のニュースから明らかになっていなかった新たな事実を出すなど、必ずしも速報性に頼らないスクープの出し方を模索しています。スクープにもいろんなタイプがありますので。
去年の例で言うと、元東京都知事の猪瀬直樹さんに内田茂・自民党東京都連幹事長について聞いた「猪瀬直樹が語る『東京のガン』」は無料記事でしたが、記録的な読者数を獲得しました。ほかに「LINE」の株式上場日をスクープした記事も反響が大きかったですし、電通での過労自殺事件では、現役社員らへの徹底取材により、ほかのメディアでは出ていないような情報や視点を提供し、多くの方に料金を払っていただきました。