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三嶋一輝に学ぶ、壁にぶち当たった中堅が挽回する方法

文春野球コラム ウィンターリーグ2019

2019/01/08
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 数年前、学生時代の友人と飲みに行った時の話である。

「えっ、お前転職したの?」

 しかも話を聞くと、特別キャリアアップとしての転職でもなさそうだ。某大手証券会社に勤務していた友人から転職をしたとの報告を受けたことがあった。新卒してすぐは持ち前の突破力を活かして、営業成績も抜群。支店長賞始め、その会社の年間優秀賞のようなものまで貰ったと聞いていたので、てっきり順風満帆そのものだと思っていた。

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 何でも賞を色々と貰った後は、所謂全国の猛者が集まるエース支店に異動となって、そこで色々とあったようだ。今までは若くてガムシャラにやってきて結果も伴っていたが、エース支店ともなると、周りはガムシャラというよりかスマートに結果を残す根っからのエリートばかり。今までの自分のやり方で追いつけなくて、色々と模索していくうちに自分の持ち味が分からなくなってしまったようだ。すっかり証券マンとしての自信を失った彼は、エース支店から追われるように地方に異動となり、そこでも結果を残せず居場所がなくなり、逃げ出すように転職したとのことであった。

持ち味を思い出して復活した三嶋

 一方、「久しぶりに給料が上がったので、支えてくれた家族にちょっとぜいたくさせてあげたい」。プロ入りして6年目。初めてシーズン通してリリーフとして腕をふるった三嶋一輝投手は、契約更改の席でこうコメントを残した。マウンド上と同様いつものクールな表情を崩すことはなかったが、アップ率で東・ソトに次いで3番目となった昇給はもちろんのこと、それ以上に自身の今年の仕事を振り返ってみて、力を発揮できたという満足感が漂っていたように見えた。

初めてシーズン通してリリーフとして腕をふるった三嶋一輝 ©時事通信社

 三嶋のルーキー時代のピッチングを振り返ると荒々しく、良い意味でのふてぶてしさを感じさせるようなピッチングが印象的であった。先発ながら150キロ以上に到達するストレートは威力満点で、コースは高めだがそのスピンが効いて浮き上がるような軌道のボールに打者のバットは面白いくらいに空を切った。こりゃあ凄いルーキーが入ってきてくれたなと思わされたものだった。

 荒々しい力強さは魅力的だった一方、与四球も多く安定感に欠ける部分もあった。2年目は開幕投手を任されると、その安定感を増そうと思ったのか、カーブ習得に力を入れる。これが悪い面に出たのか分からないが、2年目からは成績は徐々に低下。

 成績だけではなく、唸りを上げるようなボールは年々威力が落ち、マウンドでの表情も一見変わりはしないのだが、どこか冴えないように見えることも増えた。2016年CSファイナル第2戦で先発し、4回2/3を投げて2失点。先発投手として5回を投げ切ることはできなかったが、何とかゲームを壊さず繋いでくれたと当時私はそう思ったのを覚えている。失礼な言い方になるが、いつの間にか将来のエースを期待された投手に対して随分低い期待値になっていた。去年のいつだったかに三嶋の1年目の映像を見返した時に、当時のボールの威力の凄まじさに改めて驚かされたし、自分の持ち味を見失っているように見えた三嶋の復活がどうにかならないかと思ったのを覚えている。

 ところが、昨年。本格的にリリーフに配置転換された三嶋は輝きを取り戻した。短いイニングで力をセーブすることなく、全力投球するのが性にあっていたのかもしれない。リリーフで球種が少なくシンプルにストレートとスライダーで勝負することで本能が目覚めたのかもしれない。所謂敗戦処理から、先発が早いイニングで崩れた際のイニング跨ぎ、勝ちパターンの継投に、3点差以上ついた時の勝ちゲームと、昨年の三嶋はここ何年かのうっ憤を晴らすかのように投げまくった。

 松坂大輔のフィニッシュ時とよく似ている、ルーキーの頃、三嶋自身が好調の時に出ると話していたポーズ。投げた右腕が頭上に上がり、蹴り上げた右足が左前方へ投げ出される独特のフィニッシュ時のポーズが見られることも昨年はずいぶん多かった。与えた四球の数はここ数年で最も多くなったが、奪三振率は過去最高を記録。
ルーキーの頃、期待していた三嶋の姿がそこにあった。

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