あれ、小説の神様っているのか
――『宝島』は青春小説、成長小説、ミステリー、冒険小説といったさまざまな要素が詰め込まれている、極上のエンターテインメント小説だと思います。昨日の記者会見では「総合小説」ともおっしゃっていましたが、それは、そうしたいろんな要素がある小説、という意味ですか。
真藤 そうですね、そういう意味で言ったつもりです。いろんなジャンルを内包した、ひとくくりにできない大きな枠組みの、柄のでかい小説というイメージです。アーティスティックな文学表現とかいうつもりはなくて、まずは読み物として、多様な角度から楽しませることを第 一義に考えています。
――昨年でちょうどデビュー10年でしたよね。振り返っていかがですか。
真藤 新人賞を獲る前に投稿時代が3年くらいありますが、小説家になってからのほうが断然辛かったですね。僕はわりと鳴り物入りでデビューしたんだけど、なかなかヒット作が出せず、周囲から人が去り、苦境からなかなか抜けられずに、いつ廃業してもおかしくないところまで追いこまれていた。
そんな自分が直木賞を獲るなんて思いもしませんでした。確実に業界的にもそう思ってますよね。もちろん直木賞=グランプリみたいなことを一概に言えるわけじゃないけど、ありがたい星のめぐりにちがいはないですから。
いまエンタメ小説界には、おなじように苦しんでいる書き手がごろごろいますから。お祝いの連絡をくれた人たちもみんな僕の苦境を知ってるもんで、「感動した」「俺も頑張るわ」と書いてくれる人が多くて。
今回受賞したのは『宝島』であり真藤ではないという思いもあって、それがむしろ嬉しい。とにかく『宝島』が作品の力だけで栄冠をもぎとったのは事実なわけで。だからこの受賞は、面白い小説を書こうと日夜奮闘している同業者の励みにもなるんじゃないかと僭越ながら思ってます。ただひたすら作品の力を信じて、信頼できる編集者とがっぷり四つに組んで、自分の前にある壁を越えて「これを読んでくれ」というものを出せれば、もしかしたら現状がひっくり返るような成果につながるかもしれない。身をもってそんな感慨をおぼえている真っ只中なので、あれ、小説の神様っているのかもな、とさえ思えてくるほどです。
――次は東京創元社の雑誌「ミステリーズ!」で連載が始まるのだそうですね。つまりはミステリーをお書きになるのでしょうか。
真藤 はい。本格と言われるものではないけど、ミステリーの要素を含めたわりとスケール感のある物語です。戦時中のアメリカ西海岸の日系アメリカ人の話です。これは1年以上かかる連載になると思います。『宝島』を出したすぐあとに東京創元社の名物編集者がツイッターで絶賛してくれて、すぐに声をかけてくれて。それが本当に嬉しかったので、僕も「やらせてください」と即答しました。2月発売号から掲載されます。沖縄の小説もずっと書き継いでいきたいし、他にもいくつかの連載小説をスタートさせる予定です。
写真=平松市聖/文藝春秋