見せない喜怒哀楽――。

 少ない言葉の中からたくさんのことを学ばせて下さった偉大な方でした。

 攝津正投手。10年間のプロ野球生活、本当にお疲れ様でした。

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 1月8日、攝津投手の引退会見がヤフオクドーム内で行われました。これまでグラウンドで見てきた姿とは異なる、何かスッキリとした穏やかな表情の攝津さんがいました。

会見で穏やかな表情を見せる攝津正投手 ©上杉あずさ

「10年という短い選手生活でしたが満足しています。後悔も悔いもなく終わることが出来ました」

 10年ってプロ野球選手の平均現役年数よりちょっとだけ長いけれど、あんなに活躍したのに10年だったんだ……改めてそう感じました。でもそれは、その10年間がギュギュッと凝縮された濃厚すぎる素晴らしい時間だったからなんだろうなと思います。

「喜怒哀楽を出さないよう意識して」

 JR東日本東北から入団したのは攝津さんが26歳の時。オールドルーキーと言われる年齢でしたが、1年目から即戦力としてチームを引っ張りました。新人王に輝くと、最優秀中継ぎ投手も受賞。その後も最多勝、最優秀投手、そして沢村賞と数々の輝かしいタイトルを獲得してきました。

沢村賞など数々のタイトルを獲得 ©文藝春秋

 最後の3年は1軍登板が激減し、苦しみました。でも攝津さんは1軍から遠ざかっても、場所がどこであっても、変わらぬストイックさで黙々と練習を重ねていました。あれだけの結果を出してこられた方です。腐ってもおかしくないんじゃないかと思う時もありましたが、いつもどこでも攝津さんは攝津さんでした。取り組む姿勢は常に若手のお手本ですし、良い時も悪い時も喜怒哀楽は表に出しませんでした。

「平常心をモットーに。喜怒哀楽を出さないよう意識してやっていました」

 引退会見でこの言葉を聞いてグッときました。喜怒哀楽って、つい出ちゃうものじゃないですか。嬉しい時は笑っちゃうし、悔しい時やイラッとしてしまう時も人間、顔に出がちじゃないですか。それなのにマウンド上ではもちろん、普段からも攝津さんは平常心を保っていました。これが意識的な平常心だったんだと知れて何だか感激しました。どこまでもプロ意識。やっぱり本当に偉大なお方なのだと感じました。

 ただ、この会見の時には今まで見たこともないような柔らかい笑顔が溢れていました。

今まで見たこともないような柔らかい笑顔 ©上杉あずさ

 今まで“プロ野球選手として生きてきた攝津正”から解放された瞬間なのかなと感じました。10年も強い気持ちで同じ姿で在り続けた攝津さんに改めてリスペクトの気持ちでいっぱいになりました。