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標準治療の「標準」が招く誤解
がん医療に対する研究結果は世界中から無数に報告され続ける。これを各領域の専門家がまとめ、公表しているものが、「診療ガイドライン」である。これに沿ったがん医療が、「標準治療」である。
ところが皮肉なことに、この「標準」という語句が誤解を招く一因となっている。なぜなら「これは誰もが受けられる標準的な治療にすぎず、これを凌駕するプレミアムな治療があるに違いない」との思い込みを抱く人もいるからである。
しかし、決してそうではない。標準治療こそ、世界中の研究者の努力と多くの患者の協力によって生まれた人類の叡智の結晶である。患者の年齢や収入などの身体的・社会的な背景に留意しつつ、可能な限りこのガイドラインに沿った医療を高いレベルでがん患者に提供できる医師が名医である。
人類の叡智の結晶である標準治療を、保険診療として全ての国民に安価で提供できることが、日本の医療制度の凄さでもある。しかし、高価なものこそ効果があると考える人々には、誤った選択をとらせる要因にもなる。行政や、アカデミアを代表して関連学会が積極的に広報を行い、医療リテラシーの向上に努めることが喫緊の課題である。
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