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これまでにない佇まい。変化した理由とは?

 第3セットの佇まいは、これまでにあまり見たことのないものだった。

 ポイントを取っても喜ばず、なにか感情を押し殺して、テニスに集中しているように見えた。試合後の記者会見でのコメントが、とても分かりやすかった。

「第2セットでマッチポイントを逃したことで、もちろんがっかりしてしまった。でも、私にはどうすることも出来なかった、と言い聞かせようとしたんです。そして第3セットで戦い続け、未熟なところを見せてはいけないと言い聞かせるようにして。もしも、ここで負けてしまったら、この試合を振り返ったら後悔して、泣いちゃうと思いました」

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 そして驚くべきことに、感情のコントロールは別次元に到達していた。

「感情をすべてシャットアウトして、無駄なエネルギーを消費したくなかった。“無”になって、ロボットのようにプレーしていたと思う」

 21歳にして、自分の感情をうまく手なずけられるようになったとは、いやはや、驚くべき成長速度だ。

©文藝春秋

「全仏もチャンスがあるんじゃないかな」

 全米、全豪の舞台で難局を乗り切った大坂には、四大大会をすべて制覇する「グランドスラム」も現実味を帯びてきた。

 キャリアを通しての「生涯グランドスラム」ではない。

 今年、2019年のうちに全仏、ウィンブルドンも制し、一気に偉業達成まで駆け上がってしまう可能性が出てきたと私は思っている。

 ハードコートを得意とする大坂だけに、クレーコートの全仏がもっとも苦労すると予想されるだろうが、昨年行ったインタビューでは、なんと大坂は自信を持っていた。

「全仏もチャンスがあるんじゃないかな。クレーコートの特徴は、ラリーが長く続くから体力が試されるけど、いまの私のフィットネスがあれば、十分に可能性はあると思う」

©getty

 苦手意識はない。

 たしかに、全豪でもラリーの中で強力なショットを繰り出し、フィジカル・トレーニングに取り組んできた効果がうかがえた。

 全仏ではよりランニング・フィットネスが求められる。ハードコートと違い、クレーコートではシューズが赤土の上で滑っていくので、左右に揺さぶられた時の脚への負担が大きくなるが、大坂には若さが持つ回復力がある。

 そして、全仏ではラリーが長く続く分、アンフォースト・エラー、ミスでポイントを失うことが多くなる。メンタルが大きな要素になる。

 そのとき、大坂が自分を許し、再び無の状態が訪れたならば……。3つ目のタイトルを手にしても不思議はないと思う。