「プレーを止めるな、続けろ」森保監督の求めるもの
後半11分、大迫勇也のパスに、南野と、イラン代表のホセイン・カナーニが反応する。ともにボールに足を出したタイミングで南野が倒れる。すると、カナーニを含めイランの5人の選手が主審に向かっていった。カナーニのファールではないことを猛烈にアピールする。
しかし、主審の笛はならない。
その間に、南野は瞬時に起き上がるとボールを追いかけていった。そしてゴールライン手前に転がっていたボールに追いつき、センタリング。大迫が頭で押し込んで、無失点を誇っていたイランゴールをこじあけた。
さらに南野は後半21分にも相手のハンドを誘ってPKを獲得。これを決めた大迫のゴールをおぜん立てする。トップ下のポジションを務める南野のとなり、サイドMFとしてプレーする原口元気は試合後にこう語った。
「森保監督は『(どんなことがあっても)プレーを止めるな、続けろ』とすごく強く言っていて。(先制点につながる場面は)拓実がそれを表現してくれて、すごく良いシーンだったんじゃないかなと思います。あのようなちょっとしたところで勝負が決まるのだと前日もいっていましたけど、イランは(足を)止め、拓実はプレーを続けたことで、先制点がとれましたから」
10本のシュートを放つもノーゴールだが……
今大会の南野は、日本の選手のなかで最多となる11回のファールを受けて、FKを獲得している。あの場面でもファールをアピールしても不思議ではなかった。
それでも彼はあのとき、プレーを止めなかった。
一方、南野は数多くの決定機をつかんできたが決勝までノーゴール。5試合に出場して10本のシュートを放っている。このシュート数は大会に出場しながら、ゴールを決めていない全選手のなかで、もっとも多い。
その焦りから、独りよがりなプレーに走ってしまったとしても不思議ではなかった。
しかし、アジア最強とうたわれたイランとの大事な一戦で、南野はチームが勝つために適切な判断を、しかも監督が求めるような形でしてみせた。そこに南野の充実ぶりが見てとれるのだ。
香川、乾、清武よりも「エゴイスト」
南野はセレッソ大阪のユースチームからトップチームに昇格して、現在オーストリアのレッドブル・ザルツブルクでプレーしている。
セレッソには、スカウトとして香川真司を見出し、高校2年でチームに迎え入れ、立場を変えてコーチとして乾貴士や清武弘嗣を指導した小菊昭雄という人物がいる。彼は「セレッソ・アイデンティティ」(幻冬舎)のなかで、南野についてこう語っている。
「ゴールに向かう姿勢、シュートテクニック、シュートを決めるセンスを含めたトータルで考えると、一番怖い選手は拓実なんです。(中略)。真司、貴士、キヨ、みんな勝ち気だったけど、一番エゴイストなのは、拓実かなという感じがします。それだけ自信があるということでしょう」