「まるで祖父と孫の対決のような光景ですね」
解説者の韓国の女流棋士からは「かわいいですね」という声が対局中、何度もこぼれた。
2月3日、旧正月の特番(「K囲碁」)で韓国の伝説といわれる名棋士、曺薫鉉(65歳)九段と今年4月1日からプロ棋士としてデビューする仲邑菫さん(9歳)の対局が放映された。
ソウル市の名門道場に7歳の頃から留学
1月5日、日本棋院が仲邑菫さんをプロ棋士として採用すると発表した。「英才特別採用推薦棋士」の第1号で、10歳0カ月のプロ棋士誕生は日本史上初。この制度は世界で戦える才能ある棋士を育てていく目的で新たに設けられたものだ。
女流棋士ではこれまで藤沢里菜四段(女流棋士本因坊、21歳)の11歳6カ月での入段(プロ入り)が最年少記録で、韓国ではチョ・ヘヨン九段(34歳)の11歳10カ月が最年少記録。この記録を打ち破るきら星登場のニュースは韓国でも駆け巡り、仲邑さんが入門していた韓国の韓鍾振道場には取材の電話が殺到した(週刊紙『日曜新聞』1月29日)。仲邑さんは7歳の2017年から韓鍾振九段が2015年に開いたこの囲碁道場に留学していた。
韓鍾振九段は仲邑さんをこう絶賛した。
「同じ年頃の中では実力、才能は抜きんでていて、これから発展していく可能性は無尽です」
韓鍾振道場には韓国全国からプロ棋士を目指す子供たちが集まり、日々、鎬を削っている。生徒数は40人ほど。設立から4年あまりで10人以上のプロ棋士を輩出していて、韓国の名門囲碁道場のひとつと言われる。
韓国では囲碁が習い事としても人気
韓国の囲碁人口は全人口およそ5100万人の中で500万人とも1000万人ともいわれ正確なところは分からないが、子供の習い事としても人気で、その理由は「囲碁をすると考える力が伸びて、成績が上がるから」(40代、会社員)。囲碁の学習塾はソウルのそこここにある。ひと昔前までは、ソウル市内の公園で囲碁を打つ高齢者の姿は馴染んだ光景で、10数年前の新聞には必ず棋譜が掲載されていた。
仲邑さんをニュースで知った知り合いの50代の会社員は感慨深げにこう言う。
「昔は囲碁といえば、韓国の棋士が日本に留学して力をつけて帰ってきた。それが今は、日本の棋士が韓国に留学するなんて、隔世の感があります」
仲邑さんの今回の対局相手、曺薫鉉九段も日本留学組で、終局後には流暢な日本語で仲邑さんと局後の検討を行っていた。
仲邑菫ちゃんの韓国留学の決め手
世界囲碁ランキングで圧倒的に名を連ねるのは中国の棋士だが、韓国も10位以内に2人の棋士を出していて、その強さは日本でも知られるところ。仲邑さんの韓国留学について囲碁に詳しい韓国の記者はこう話す。
「韓国は集中して囲碁を学ばせる道場が充実しているといわれ、2年前(2016年)から青年と少年の国体それぞれで正式種目にもなり、囲碁人口をどんどん増やして行こうという傾向にあります。韓国にはそうした雰囲気や囲碁を学ぶ環境があり、さらに日本の棋士は勝負欲に欠けるともよくいわれるそうで、菫さんの父親でプロ棋士の仲邑信也九段が菫さんの韓国留学を決めたと聞いています」
仲邑菫さんの家庭は父親がプロ棋士の仲邑信也九段で、母親は元囲碁講師、さらには叔母も石井茜三段という囲碁一家。仲邑菫さんは3歳の時から母親に囲碁の基本を教わったといわれる。