2月5日、順位戦C級1組の10回戦が行われている。ここまで全勝しているのは、杉本昌隆七段と藤井聡太七段のみ。言わずと知れた師弟コンビだ。

 師弟が同クラスで同時昇級となれば、第45期(1987年度)B級2組順位戦で大内延介・塚田泰明師弟が成し遂げて以来、32年ぶり史上2例目だ。また、杉本は2015年度(第74期)にB級2組からC級1組に降級している。再びB級2組に返り咲けば、こちらも近年に例のない快挙となる。

 実は、杉本は『天才 藤井聡太』(文春文庫)の取材の中で、弟子・藤井との同時昇級について語っている(取材日:2018年8月9日)。そこに込められた熱い思いとは何だったのか――。

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©鈴木七絵/文藝春秋

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「みっともない将棋は指せない」

 藤井が昇級したために、2018年度の第77期順位戦では、杉本と藤井は、同じC級1組に在籍することになった。39名の棋士が1年間に10局指し、成績上位2名だけがB級2組へ上がる狭き門だ。

 古くは大山康晴十五世名人と弟子の有吉道夫九段が共にA級に在籍し、タイトル戦でも4回戦った事があるが、順位戦のB級2組以下では、師弟が対戦することは原則としてない。ただ、デビュー後ほんのわずかな期間で躍進した藤井の姿を見れば、彼が何年もこのクラスに止まる事は考えにくい。

 開幕から共に4連勝と好調なスタートを切った序盤、杉本のモチベーションは非常に高かった。

©鈴木七絵/文藝春秋

「リーグはまだ始まったばかりでどうなるか全く分かりませんが、藤井と同じリーグを戦うことはとてもやり甲斐があります。

 藤井は間違いなく昇級候補です。自分はどこまでその争いに絡んでいけるか分かりませんが、せっかく同じ舞台にいる以上みっともない将棋は指せないという気持ちはあります。

 もしも同時昇級になったら……それは一つの夢ではありますが、まずはできるだけ長い間、上位を争う位置につけていられるようにしたい。

 身近に藤井のように光り輝く存在がいると、やはり影響を受けますよね。師匠として一緒にいるのに、自分の将棋を疎かにしていたら恥ずかしいじゃないですか」