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特集観る将棋、読む将棋

2019/02/05

「一人の棋士の出現で劇的に変わりました」

「8つあるタイトルを、7人の棋士で分け合っているのは非常に象徴的だと思います。多くの棋士が藤井の登場によって、それまで以上に全力で戦っています。もっと強く、藤井に負けないように――。今はそう考える一人一人の棋士がプライドを取り戻している時だと思います。

 私も勝ち星の規定で八段への昇段(七段昇段後、190勝)が迫っています。さすがに八段になるのは、藤井より私のほうが早いとは思いますが(笑)。少しでも早く上がる事が身近な目標の一つです」

 ここしばらく、杉本は長年拠点を置く名古屋で声をかけられることが増えたと言う。

「名前を呼ばれる事は少ないんです。『先生、頑張って』とか『師匠』とか。藤井の先生と憶えられているんでしょう(笑)。

 29連勝の時のような藤井フィーバーがこのままずっと続くとは思いません。でも一過性のものではなく、藤井をキッカケに将棋に関心を持つ人が増え、裾野は確実に広がっていると感じます。日常会話の中で野球やサッカーが話題になるように、将棋に興味を持つ人も随分増えたのではないでしょうか。

 一人の棋士の出現で将棋界を取り巻く環境は劇的に変わりました。これは凄い事だと思います」

©鈴木七絵/文藝春秋

もしも藤井に驚かされる事があるとするなら

 杉本は藤井がデビューしてからずっと、「将棋に関して彼が何を成し遂げても驚かない」と発言し続けてきた。

 そこには愛弟子への圧倒的な信頼と、棋士としての揺るがぬ信念が滲む。

 デビューから29連勝を記録した時も、15歳で棋戦優勝を果たした時も、羽生に初対決で勝った時も驚きはなかったと語る杉本に、もしも藤井に驚かされる事があるとするなら――と聞いてみた。数十秒ジッと考え込んだ末に、杉本はようやく答えた。

「ある日突然彼が『結婚します』と言ってきた時くらいではないでしょうか。あれ、いくらなんでも早すぎるか(笑)」

 藤井の登場により想像だにしなかった活況を迎えた将棋界は、群雄割拠のときを迎えている。一人の絶対王者が吃立する時代は去り、若いトップ集団がタイトルを分け合う。時計の針が“羽生世代によるタイトル独占”に遡ることは、おそらく二度とない。

 少年から青年へと成長しながら、藤井は多くのファンが期待する王者への道を歩もうとしている。16歳の藤井聡太の眼に、頂はどれほどの高さに映っているだろうか。

天才 藤井聡太 (文春文庫)

中村 徹、松本 博文

文藝春秋

2018年11月9日 発売

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