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現地紙・中央日報が報じた「天才少女の1日」

 中央日報は仲邑さんの韓国での留学生活を「天才少女、菫の1日、朝5時起床、10時間囲碁を打ちます」(1月30日)と詳しく報じた。

「普段は朝5時30分に起きると菫はすぐに父親の仲邑信也九段と囲碁を打つ。朝食後、菫は母親と韓鍾振囲碁道場に向かう。午前10時頃道場に着くと、同じ年頃の子供たちとリーグ戦や対局をする。菫は囲碁を打つとき、焦りがでてくると爪を噛んだり、相手の顔を何度も確かめる対局のクセがあるという。終局から再び碁盤に向かうまでかかる時間は普通2~3時間だ。

仲邑菫さん(左)と父の仲邑信也九段 ©時事通信社

 菫は韓国へ来た頃、囲碁を打ち、敗色が濃くなると、悔しさを堪えきれずに涙をぽろぽろとこぼすことで有名だった。最近、レベルが一段階上のグループに移動した菫は囲碁を打つと負けることが多い。しかし、最近では負けても涙を流すことがずいぶん減った。納得のいかないような表情はしても、師範に少し不満を見せるだけだ」

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「天才の育て方」日韓の違い

 プロ女流棋士、仲邑菫初段の登場は韓国ではまた別の意味があると前出記者は言う。

「韓国にも2015年に天才棋士といわれた金ウンジがいました。当時、彼女は8歳。ただ、彼女は先月1月に開かれたプロを選抜する女子入段大会で4年連続脱落し、まだプロ棋士にはなれていません」

©iStock.com

 仲邑菫さんもプロになるべくこの大会に応募したが、日本棋院が「英才特別採用推薦棋士」制度を設けたことで日本に帰国。4月1日からプロ棋士として認められ、活動できることになった。

 囲碁専門記者は朝鮮日報のコラムでこう書いている。

「囲碁で大成しようとするなら入門も、入段も早ければ早いほどいい。多少未熟でもプロになれば学ぶことはとても多い。金ウンジは再び『入段試験』準備に入り、菫は本格的にプロとしての生活を始める。韓国と日本の天才への価値観と育成方法が大きく違うことがこの1週間であらためて露わになった」(1月12日)

 プロ棋士、仲邑菫初段の登場は韓国囲碁界にも一石を投じたようだ。

世界最強棋士が「私の幼いときよりも強い」と太鼓判

 仲邑菫さんと対局した曺薫鉉九段はいまだ入段最年少世界記録となっている9歳6カ月でプロ棋士となり、世界選手権で何度も優勝を重ねた、世界最強棋士のひとりといわれる。対局後、仲邑菫さんについて訊くと曺九段はこんな言葉を残した。

「基本もしっかりしているし、私の幼いときよりも強いですね。これから着実に勉強して努力していけば大成するのではないでしょうか。ただ、これからはどんどん(勝つことが)難しくなる。学ぶことだけでは勝てなくなる。自分のものを身につけなければいけない。プロになれば、最初は連戦連敗かもしれませんが、挫折することはない。努力して研究して、それによって自分のものをどう身につけていくかです」  

曺九段は昭和を代表する名誉棋聖、藤沢秀行を「盤上の師」とし、親交が深かったことでも知られる。ちなみに、これまで女流棋士プロ入り最年少といわれた藤沢里菜四段はこの藤沢秀行棋聖の孫にあたる。

 冒頭の対局前に、殺到した日韓の記者たちを前に仲邑さんは緊張したのか、日本語と韓国語での質問に恥ずかしそうに首をかしげるばかりだったが、対局にどう臨むかと訊かれた時は、韓国語で、「一所懸命打ちます」と答えた姿が印象的だった。

 仲邑菫さんがこれからどんな成長を見せ、そして、韓国からはどんな棋士が登場してくるのか。

 こんなワクワクするような日韓対決ならいつでも見たい。