「安全保障やサイバーセキュリティの専門家の退職者が出始めたうえ、人材会社に転職登録をしている者も多く、今後、数百人規模での大量退職者が出る可能性がある」。こう語るのはあるヘッドハンティング会社の関係者だ。
傘下に監査法人、コンサルティング法人、税理士法人、弁護士法人などを抱え、総勢約11000人が働く国内会計事務所最大手のデロイトトーマツ合同会社がいま、大量の人材流出の危機に直面している。
「最悪の場合、コンサル業務を通じて知り得た防衛機密や産業界の最新技術などの情報が、中国に流れてしまう危険性がある」(デロイトの現役社員)と懸念の声が上がっているのだ。
デロイトだけがアジア域内での一体運営を強化している
ことの発端は、2018年9月1日付で地域統括会社「デロイトアジアパシフィック(デロイトAP)」が設立され、日本のデロイトトーマツ合同会社はその傘下に入ったことだ。登記上の本社はロンドンに置くが、APのCEOはシンガポールに駐在する。設立の主な狙いは、地域全体での人材の最適配置と、そのための採用・育成の強化、サービス品質の向上と均質化だ。APの管轄地域は、日本、中国、韓国、香港、豪州、インド、シンガポール。
これまで日本のデロイトは、米国本社にロイヤリティーを支払い、そのブランドを使うことが許されてきたが、これからはデロイトAPに支払うことになった。これにともない、アジア全体での人事権や戦略決定権はデロイトAPが保有する。実はここに大きな課題が潜んでいる。
ちなみに他の外資系会計事務所やコンサルティングファームは、地域内のプロジェクト単位で連携することはあっても、各国の法人が人事権や戦略決定権をそれぞれ持ち、経営の独立性が担保されているが、デロイトだけがアジア域内での一体運営を強化している。
国家機密に近い情報に接することもある
デロイトの社員が語る。
「大手会計事務所業界にとって、会計監査やコンサルティングのグローバルにおける品質管理を徹底するために海外との連携を一層強化する必要性はある。ただ、デロイトAPのような地域統括会社を作って各国・各地域の法人を傘下に置く強い縛りが本当に必要なのか、緩やかな連携でよいのではないか」
そう指摘するのには大きな理由がある。コンサルティング法人などでは国家機密に近い情報に接することもあるが、地域統括会社の下で人事などの一体運営が強化されると、「属人的な機密情報」が漏れるリスクが高まるからだ。端的に言えば、人の口には戸は立てられぬ、ということだ。