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加仁湯(栃木県・奥鬼怒温泉)――たどり着くのは大変でも極楽が待っている

 豪雪で氷点下、そして、秘境で遠い。それでも、この宿の極上の濁り湯につかると、とろけてしまいそうに幸せになる。その幸せが忘れられなくて、また、雪の中を「加仁湯」へ向かう。

温泉ビューティ研究家・旅行作家の石井宏子さん

 鬼怒川温泉駅から市営バスに乗り1時間35分で終点の女夫渕(めおとぶち)に着く。そこからは一般車両は進入禁止。遊歩道を1時間20分ほど歩いていくか、宿の送迎バスで、くねくねのスーパー林道を25分。奥鬼怒温泉は、日光の大奥座敷なのだ。冬は「加仁湯 雪見風呂送迎プラン」がある。東武鉄道の下今市駅まで宿のバスが迎えにきてくれるので楽々だ。

 雪の世界をひた走り、最後はくねくねのスーパー林道、真っ白で何も見えない。秘境の温泉へ来た~という喜びをかみしめて到着する。

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 ちょっと休憩しようと、加仁湯の温泉まんじゅうを手に取った。むむ? これは揚羽蝶の家紋ではないか。奥鬼怒は平家落人の里だというが、加仁湯の小松家も代々この家紋だという。ご主人の小松輝久さんの面差しが風格ある雰囲気に見えてきた。

 温泉まんじゅうとお茶で元気復活、浴衣に着替えて温泉へ向かう。露天風呂は第一から第三まである。わたしのお気に入りは第一露天風呂。男性のみなさまには申し訳ないが、このいちばん奥の絶景露天は、御婦人専用だ。

 青白い濁り湯が、雪景色に浮かび上がって、うっとりする美しい光景だ。しかしながら、ここは氷点下、一歩踏み出せば足の裏が凍り付く。寒いを超えて痛い。痛いけれども入りたい。温泉の温度は絶妙なのだが、冷えているので熱く感じる。痛い、熱い、でも入りたい。これを乗り越えて辿り着く極上の湯。「ふぅうううう。あったか~~い」、これ、これ。これが味わいたくて、冬の加仁湯にやってくるのだ。

極寒の中でとろけてしまいそうな幸せ

温泉好きのココロをくすぐる“利き湯”も

 第一露天風呂は黄金の湯が源泉で、泉質は含硫黄─ナトリウム─塩化物・炭酸水素塩泉。pH6.4の中性でやわらかな入り心地。濃厚な硫黄で血行が促進されて、肌がつやピカになる。

 源泉は5本あり、全館どの温泉も源泉かけ流しだ。5つの小さな湯船が並ぶ「ロマンの湯」では5種類の湯の“利き湯”ができる。微妙に違う色や感触。温泉好きのココロをよくわかっているご主人ならではのアイデアだ。

 夜はライトアップされて、露天風呂からながめる対岸の雪の岩壁が迫ってくるようだ。カモシカがいることもあると聞いて目を凝らして観察したが、この日は見つけられなかった。

 山菜や川魚を味わう夕食。別注で鹿刺しや、熊刺しなどのジビエも味わえる。熱々で運ばれる山菜のグラタンが美味しかった。