キヨシのオーラはまるで「ミラーボール」
瀬 「すごいですね、DeNA時代からのファンがたくさんいらしてるじゃないですか!」
キ 「ところで、DeNAって何をつくっている会社なんだろうね、未だにわからないんだよね」
瀬 「でも、この冬の注目は、なんといっても原監督ですよね!」
キ 「もー、なんで今その名前を出すかなぁ!?」
瀬 「え、青山学院大の原監督のことですよ? もうすぐ箱根駅伝だから……」
この日は、マラソンの瀬古利彦さんとのダブル講師。2人とも客席のギリギリ前まで出て、立って話している。ハンドマイクでなくマイクスタンド1本だったら完全にオール阪神・巨人だ。ベイスターズは3年連続のCS出場を逃し、高橋由伸さんにかわって原辰徳さんがジャイアンツの監督に再就任することが発表された、そんなタイミングでの講演会。キヨシは語りに語った。監督時代のエピソード、来シーズンのベイスターズとジャイアンツの戦力分析、東京五輪、ご家族のこと。そして昨今問題になっている、学生スポーツでの行き過ぎた指導についても。時おり最前列のベイスターズファンに「そうだろ!?」と相槌を求め、瀬古さんに話をふり、演題の『生涯、健康で元気に生きる』に関する話題以外の、ありとあらゆる本音を話してくださった。最後はアカペラで気持ち良さそうにひとふし歌い、大喝采のうちにライブ……じゃなかった、講演会は終了した。
自分史上いちばん近くで会えた、この日のキヨシ。「スターは間近で見ると独特のオーラがある」というけれど、キヨシのそれは、例えるならミラーボールだった。自力で高速回転し、同じ空間にいるすべての人の意識をステージに向けさせ、盛り上げようとするミラーボール。
きっとあの日も、こんな感じだったんだろう。ベイスターズの監督になって初めてのミーティング。うつむき、監督から離れ、気配をころして立っている若い選手達に「前に来い!」と呼びかけ、自虐ネタで笑わせ、勝利への執念を熱く語り……。
私たちファンは覚えている。あのころのキヨシを
ハマスタは巨大化し、個性豊かな若い選手たちが活躍し、筒香キャプテンの視線の先はすでに海外。昭和ムード歌謡も似合ってしまうミラーボールは、もうベイスターズには必要ないのかもしれない。
だけど、私たちファンは覚えている。全力で回りながら光を放ち、周りにいるすべての人の心を掴みにいき、選手とファンを踊らせるために、自ら最初に踊り出したキヨシ。それが今のハマスタの活気の原点のひとつであることを。わずか7年前のはじまりだったことを。
ラミレス監督のもと、強くなったとはいえ、打てない、勝てない試合も山のようにある。でも、ベイスターズファンの心の中には、小さなミラーボールがひとつずつ回っている。それは少しだけ昔のハマスタで、キヨシにわけてもらったもの。だから私たちは、どんな試合でもあきらめずに最後まで応援を続けられる。
今年、ベイスターズがプライマリーマークに掲げる、球団創設周年数をあらわす「70」は、キヨシ監督の背番号でもあった。2019年秋。優勝の瞬間を解説席から見届ける中畑さん。ファンと選手が、歓喜のなか、あの日のハマスタとキヨシ監督の輝きに少しだけ思いを馳せる……そんな瞬間を味わえたら。そんなうまくはいかないかもしれないけれど、それでも、今年こそは。
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