“Good artists copy, great artists steal〔優れたアーティストはコピーし、偉大なアーティストは盗む〕”と語ったのは、20世紀の巨匠パブロ・ピカソ。この言葉のとおり、文化や芸術は模倣によって発展してきた。
もっとも、ブランドやデザインなどを完全コピーする「パクリ」はご法度。こうした「パクリ」騒動がとりわけ多いのが、ファッション業界だ。
「インスパイア」「オマージュ」摸倣に寛容なファッション業界
ファッションは、模倣とともに進化してきたといっても過言ではない。似たデザインやアイテムを「トレンド」と称し、模倣を「インスパイア」「オマージュ」などとポジティブに表現するのは、ファッション業界が模倣に寛容であることの現れだろう。
もちろんファッション業界でも、「パクリ」はタブー。偽ブランドやコピー商品の摘発により、その意識は定着しつつある。とはいえ、許される模倣とパクリとの違いは何か、なぜパクリはいけないのか、そして、パクリにどう立ち向かえばいいのか、いまだ明確な答えは示されていない。
なぜファッションエディターの私が弁護士に転身したのか
筆者は、フリーランスのファッションエディターとして長らくファッション業界に身を置いた後、ファッション・ローを専門とする弁護士になった。きっかけは、ファッションエディターとして働く中で直面した数々の法律問題を解決したいと考えたこと。
自身が制作に関わった作品が勝手に二次使用されたり、アシスタントをする知り合いから師匠のパワハラについて相談を受けるなど、さまざまな問題を目の当たりにしてきた。
中でも印象的だったのが、友人のブランドに登場するキャラクターがパクられたことだ。彼が情熱を傾けて作り上げたキャラクターは、彼にとって自分の片割れのような存在だったろう。それが一瞬にして模倣され、彼の情熱を踏み台にして我が物顔で世に出ていくことに憤りや無力さを感じたことが、今につながっている。したがって、筆者にとってファッションにおけるパクリや模倣は、自分の根本に関わる特別なテーマなのである。
そこで、昨年から今年にかけて報道されたユニークな事件を振り返りながら、ファッションにおける模倣とパクリについて考えてみたい。