そもそもフェイクブランドは違法ではないのか?
ここで多くの読者は疑問に思うだろう。そもそもフェイクブランドは違法ではないのか、と。
報道によれば、シュプリーム イタリアは、その名のとおり、イタリアでスタートしたブランドであるが、イタリア国内では、2017年4月、ミラノ裁判所がシュプリーム イタリアを不公正なフリーライドと判断したことにより、シュプリーム イタリアの商品が押収され、すべての販売が差し止められた。ところが、昨年5月、欧州連合知的財産庁が、「シュプリーム」は一般消費者にとって「最高の品質」を意味する記述的な言葉であり独自性を欠くという理由から、本家シュプリームの商標登録を拒否したのである。
これを受け、6月にはトラーニ裁判所が、ミラノ裁判所の判断によりブロックされていたサイトの再開や押収された商品の解放を命じたという。これにより、いくつかの問題は残るものの、現在、シュプリーム イタリアはイタリア国内で商品を合法的に販売している。
偽シュプリームが中国国内の販売権を有しているわけではない
サムスンが本家シュプリームではなくシュプリーム イタリアとコラボした理由は、シュプリーム イタリアが中国国内の販売権を有しているからだとも報道されたが、これは正確ではない。
中国の商標登録の状況を確認してみると、本家シュプリームは2014年3月4日にボックスロゴの商標登録を申請しているものの、現在、商標異議申立がなされている(申立人は不明だが、IBF社の可能性もある)。他方、シュプリーム イタリアを保有するIBF社は、昨年10月4日、黒いボックスロゴ商標の領土延伸保護(国際登録制度)を申請しているようだ。
偽シュプリームの狙いは「馳名商標」か
つまり、衣服や靴、帽子などについては、本家シュプリーム、IBF社のどちらもシュプリームブランドの商標権を持っていない。先ほど抜け駆け登録について触れたが、中国の商標法には、「馳名商標」という制度もある。「馳名商標」とは“中国国内で”公衆に熟知された著名な商標のことで、「馳名商標」と認められた商標は未登録であっても保護され、これと同じ商標を登録することはできないのだ(中国商標法13条、JETRO訳)。
報道によれば、シュプリーム イタリアは、スペインやベオグラードなど世界中の国々で70以上ものショップをオープンするとコメントしている。さらには、上海に旗艦店をオープンするとの情報も舞い込んできた。
シュプリーム イタリアの真意は不明だが、このように派手な動きに出ているのは、中国においても、先の欧州連合知的財産庁と同様の判断がなされ、「シュプリーム」が商標登録されないと踏んでいるからかもしれない。あるいは、中国での認知度を高め、「馳名商標」としてシュプリームブランドを独占する思惑か。