“真実は藪の中”なのか
では、東京サレジオ学園はどのような調査をしたのか。回答にはこうある。
〈2001年の調査におきましては、7名の方から回答を得ましたが、性的虐待があったとする証言は得られず、(略)今回(=2019年)も、1972年3月に作成された名簿における同級生の方のうち、電話番号が記載されていた6名の方に対して改めて電話連絡を試みましたが、連絡をとる事ができませんでした〉
不可解なことに、「調査対象がどの時点での園児なのか」、「調査対象は何人なのか」などが明らかでない(重ねて電話でも問い合わせたが、園長は「手元に資料がない」と述べた)。どれだけの卒園生に対してどのようなかたちで問いかけたのか。調査方法もわからなければ、調査が信頼に足るものかどうかも判断がつかない。性的虐待が「なかったこと」を立証するわけでもなく、「確認できなかった」の言葉が4回も繰り返し登場する。
竹中氏以外にも2名の卒園生が虐待を訴えていた
ただ、これまで明らかでなかった事実も回答によって明らかになった。「竹中氏以外の子供」への虐待についてのくだりである。
〈2000年前後に、2名の卒園生(いずれもその時点で30年以上前の卒園生でした)から身体的虐待、性的虐待の申し出がございました〉
〈お2人ともに真摯に対応、調査しましたが、性的虐待につきましては、竹中氏に対する件と同様、事実を確認することはできませんでした。他方、身体的虐待については、当事者が認める形で事実が確認できました〉
東京サレジオ学園側は、加害者が誰であるかについては明らかにしていない。その加害当事者が「暴力をふるった」ことは認めたが、「性的虐待をしたこと」は、やはり「確認できなかった」とのみ回答している。
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今回新たに発覚した2人の被害者も竹中氏のケース同様、“真実は藪の中”だが、客観的な第三者による公正な調査を経た上での結論とは言いがたい。だが、東京サレジオ学園からの回答は〈改めて事実調査を行うことは現実的に難しいと考えておりますが、司教協議会の指示に従います〉と締めくくられている。つまり、今後、事実関係を明らかにする可能性は残されている。
アイルランドでは議会が設置した独立委員会が調査にあたり、ドイツでは3つの大学による研究チームが教会に残された書簡や資料を検証して被害実態を明らかにした。日本でもこうした海外の先例に倣い、誠実で包括的な対応がなされるのだろうか。
被害者の覚悟の告白を実りにつなげるために、被害の全貌を明らかにする努力が払われることを願ってやまない。