現在放送中のNHKの大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(宮藤官九郎作)では、目下、ドラマ前半の主人公である金栗四三(1891~1983/演じるのは中村勘九郎)が、1912(明治45)年のストックホルムオリンピックのマラソンの日本代表に選ばれたところだ。きょう2月24日放送の第8回では、金栗が短距離走の三島弥彦(1886~1954/演じるのは生田斗真)とともにいよいよストックホルムに向けて出発する。

スポーツ万能で東京帝国大学法学部卒の弥彦

 折しもきのう2月23日は三島弥彦の誕生日だった。1886年、東京に生まれた弥彦は、ドラマで描かれているとおり、天狗倶楽部というスポーツ同好会に所属した。羽田でのオリンピック予選大会には審判員として参加しながら飛び入りで競技に出場し、100メートル・400メートル・800メートルで優勝して見事オリンピック代表に選ばれる。短距離走以外にも野球、ボート、柔道、乗馬、スケート、相撲と何でもこなしたスポーツ万能の彼は、当時、東京帝国大学(現・東京大学)法学部に在学するエリート中のエリートであった。卒業後は、兄・弥太郎(1867~1919)がかつて勤務した横浜正金銀行(のちの東京銀行、現・三菱UFJ銀行)に就職し、ニューヨーク支店支配人も務めている。

『いだてん』で三島弥彦を演じる生田斗真34歳 ©getty

父・通庸は山形、福島、栃木の県令(知事)を歴任

 弥彦の父は、薩摩出身の官僚・三島通庸(みちつね/1835~88)である。通庸は1874年に酒田県(翌年に鶴岡県と改称)の県令(現在の知事)となり、76年に周辺の県が統一されて山形県が誕生すると初代県令に就任した。その後、82年に福島県令となり、翌年には栃木県令を兼任する。

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 通庸はこれら県令時代を通して地域開発を推し進めた。山形県では、山形市内に新築した県庁舎から幅広い道路をまっすぐに延ばし、その両側には師範学校や警察署、製糸場など県の主要官署を建設する。道路を中心に交通体系の整備にも尽力し、とりわけ山形県の米沢から栗子山を貫いて福島に出るトンネル(栗子山隧道)は大工事となった。通庸はここからさらに東京へといたる道路の完成を急いだ。通庸はこうした開発により生まれた風景を、洋画家の高橋由一に描かせている。『いだてん』のなかでも、三島邸内に通庸の肖像画(すでに劇中の時代には亡くなっている)とともに高橋の手になる「山形市街図」が飾られているのが確認できた。

 開発にあたっては、地元への負担も大きかった。そのため、福島県内では住民の不満が募り、会津自由党を中心に反対運動が起こる。通庸はこれを徹底的に弾圧し、「鬼県令」とまで呼ばれた。彼はその後、1887年にも、警視総監として保安条例を施行し、多くの民権運動家を検挙している。このなかにはのちに衆院議員となる尾崎行雄や、戦後の首相・吉田茂の実父で自由党員だった竹内綱も含まれた。とはいえ、敵対する人々のあいだでも、通庸に一目を置く向きはあったようだ。保安条例で検挙された星亨は、通庸の訃報に接したとき「彼モ一個の偉男子ナリ」とその死を悼んだという(※1)。