『リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義』(渡辺靖 著)

 本書の題名になっている「リバタリアニズム」は、一般に自由至上主義や自由尊重主義と訳される政治思想。日本人にとっては、いまいち馴染みのない言葉であるが、アメリカでは自分の政治信条を語るとき、当然のように使われている。

「個人のもつ自由を最大限尊重し、政治的にも社会的にも経済的にも自由を求める思想と言えるでしょう」

 と著者の渡辺靖さんは語る。

ADVERTISEMENT

「ですから、経済的自由を求めて市場を重視し、政府の介入を否定します。また、社会的自由のために人種やLGBT、マイノリティの差別にも反対します」

 渡辺さんは人類学の方法によって、異なる人種、宗教、民族がひしめくアメリカ社会の実相を探ってきた。トランプ大統領は政府による保護貿易を進め、人種、国籍、性別、セクシャリティなどによる差別を助長するような発言を繰り返してきた。そんななか、なぜ「リバタリアニズム」からアメリカのいまを探ろうとしたのか。

「アメリカの二大政党である共和党と民主党は、リバタリアニズムをうまく吸い上げられていないのですが、国民には着実に広がっていることが実感されたからです。たとえば、ハーバード大学には、リバタリアン・クラブという学生サークルがあります。私が留学していた90年代には、そんなクラブはありませんでしたから、『おっ、これは新しいぞ』と驚きましたね。また、アメリカには二大政党のはざまにリバタリアン党という弱小政党が存在しますが、ここが近年、大統領選のたびに得票率を伸ばしています。それを後押しするように、若者の政治意識も変化しています。7割の若者が二大政党制に幻滅しているという調査もあり、次の世代の有権者を考えるとボリュームゾーンとして無視できません。2020年の大統領選挙でも、激戦州などでキャスティングボートを握る可能性は十分あります」