古いビルの3フロアにわたって広がる展示空間には、いずれの階でもふわり気持ちが解放されるような作品が並んでいた。居心地がいいから、つい長居をしてしまう。東京のJR御茶ノ水駅から徒歩で数分のところ、トーキョーアーツアンドスペース本郷で開催中の「霞はじめてたなびく」展。
病を持った身が見据えた風景
展示は全体でみごとに統一感があるのだけれど、じつは各階ごと出品アーティストはちがう。
1階は、佐藤雅晴だ。広い部屋の壁面いっぱいに、映像作品が映し出されている。《福島尾行》と題された作品だ。日本の現代の、何気ない町の光景がそこにはある。
観ていて、あれ? と引っかかりがあるのは、画面のところどころが手描きの絵に置き換わっているからだろう。実写映像のなかに、唐突にアニメーションが組み込まれていて驚かされるのだ。
そんなしかけが、何気ない光景にじっと目を凝らすきっかけになる。実際、長く眺めていると、どんな場所にもおもしろみは感じられてくるから不思議。この世界が存在していること自体にありがたさを感じられるようになってくる。
佐藤雅晴は現在、重いがんの病を背負って生きている。体調が悪くなるいっぽうだった時期、どうにかこうにか福島へ出向いて撮影した映像が、本作のもとを成している。病状がよくなるタイミングがあれば、また福島へ赴いて続きをつくりたいと佐藤は考えているという。