好評公開中の映画『居眠り磐音』。映画の公開と決定版の刊行記念に原作者・佐伯泰英さんと、映画に出演した谷原章介さんの対談が実現。原作の熱心な読者でもある谷原さんが、故人である児玉清さんの思い出と映画で演じた両替商・今津屋吉右衛門への想いを佐伯さんに打ち明けた。
※文春文庫『居眠り磐音 寒雷ノ坂(二)決定版』特別対談(上)より一部抜粋
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原作ファンの人間としてのジレンマ
佐伯 先日、試写で映画を拝見しました。この作品はNHKでドラマにもなっていますが、映画は映画らしい、たいへん迫力のある仕上がりだと感じました。
谷原 作品の世界観は壊れていませんでしたか?
佐伯 壊れてません! むしろ、原作に忠実にすくい取ってもらった。僕は、映像は小説とは別のものだと思っているので、もっといじってもらってもよいと考えていますが、監督の本木(克英)さんや脚本の藤本(有紀)さんが驚くほど忠実に映像化してくださった。一方で映画でしか表現できない部分もたっぷりと味わえました。
谷原 それを聞いて、ほっとしました。やはり役者の視点で言いますと原作というのはある程度無視をして、飛躍しないといけないという思いはあるんですけれども、一原作ファンの人間としては、「いやいやこの大事な『居眠り磐音』の世界観を守ってくれ」という、ジレンマがけっこうあったんです。ここまで好きな作品の映像化に出させていただくということはなかったので。ただ、台本を読んで、原作をギュッと縮めただけでなく、違和感なくストーリーが繋がっていると思えたので、気持ちよく演じさせていただきました。