イラク戦争開戦時、アメリカ政府の大義名分であるイラクの大量破壊兵器保持という政府の嘘をいち早く見破り、真実を暴こうと孤独に立ち向かった者たちがいた。“弱小”新聞社ナイト・リッダーの記者たちの知られざる闘いにスポットをあてた映画『記者たち ~衝撃と畏怖(いふ)の真実~』が、このたび公開される。

 政府の圧力を押しのけて真実を伝える記者たちという主題は、昨年話題を呼んだ『ペンタゴン・ペーパーズ』にも通じるが、『記者たち』の物語は実に感動的ではあるものの、必ずしも大団円を迎えない。彼らの記事は闇に葬られ、アメリカは、イラク侵攻へとつき進んだからだ。映画の原題「Shock and Awe(衝撃と畏怖)」は、ブッシュ政権がイラク侵攻時に実行した作戦名から付けられた。

 本作を監督し、さらにナイト・リッダーのワシントン支局長役を自ら演じたのは、『スタンド・バイ・ミー』『恋人たちの予感』の名監督、ロブ・ライナー。その作風から、新作の持つ政治色の強さは一見意外に思えるが、実は前作『LBJ ケネディの意志を継いだ男』もジョンソン元大統領の人生を描いた政治ドラマ。ライナー監督の口からは、現政権への強い危機感が溢れだした。

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ロブ・ライナー監督

NYタイムズもワシントン・ポストも「嘘」をそのまま報道した

──監督がナイト・リッダーの記者たちの物語を知ったのは、いつ頃のことだったのでしょうか。

RR イラク侵攻が起こった当時は、彼らの存在をまったく知りませんでした。劇中で描かれているとおり、『ニューヨーク・タイムズ』でさえ、ブッシュ政権が発表していることを鵜呑みにして、それをただ印刷しているだけだったからです。やがて侵攻が現実のものとなり、初めて真実が隠されていたことが知られるようになり、衝撃を受けました。イラク侵攻に反対する人々にとってもっとも必要だったはずの真実が、まるで届いていなかった。それ以来、もし報道が真実を伝えることができなかったら何が起きるのか、をテーマに、イラク侵攻をめぐる映画をつくりたいと思っていました。でもそれをどう映画にしていいのかがわからなかったんです。いろいろ模索していたときに、リンドン・ジョンソン元大統領のホワイトハウス報道官だったビル・モイヤーズがつくったドキュメンタリー(Bill Moyers Journal : Buying the War)で初めてナイト・リッダー社の記者たちの存在を知り、「これだ! このアングルで映画をつくれるぞ!」と確信したんです。

──映画で描かれたのはブッシュ政権とジャーナリズムをめぐる関係性ですが、これは現在のアメリカにも置き換えられる問題に思えました。

RR 私が『記者たち』で一番伝えたかったのは、報道の自由がいかに重要か、それを失えば民主主義は崩壊するだろうということです。おっしゃるように、トランプ政権は報道の自由を遮断し、自分たちのプロパガンダだけを報道させようとしている。大統領は、自分たちの言うことをきかない報道機関を「民衆の敵」とさえ呼んでいます。民主国家において選挙で選ばれた大統領がそんなことを口にするとは、とても信じられません。このままでは、アメリカは民主主義を失い独裁主義的な国家になってしまう。だから今こそ、この映画を通して改めて感じることが重要なのです。いかに報道が自由であるべきか。そしていかに真実を人々に届けることが大切か。